番外編:反侍組織S.I.D(シド)ーサムライイズデッドー
侍の道に庶民が入るのは厳しい。作者の従姉妹は10代の頃、侍に憧れていた
オーディションで母親と歳がそう変わらないようなオバサン達が、夢を棄てられずにフリフリ衣装で戦国と変わらないような振り付けで歌い踊るのをみて狭き門がバカバカしくなり、心変わりしたぐらいだ
電子ビーム箱板に映ることがそこまで価値があるのだろうか?人によっては、憬れるしかない苦しい人生を生きてきた薄幸美少女もいるのだろう
故郷を抜け出したい、家族と折り合いが悪い。変える場所など無い。だが、才能にも恵まれず
侍には、なれなかった
失意のうちに一度は出た家に帰る決心をしたそんな時、
奴が現れたんだ………
この番組は、フィクションです
実在の侍とは関係ありません。侍社会を批判する意図は、ありません
君の夢は何?
サッカー選手かもしれない、漫画家、パティシエ、セレブの専業主婦…またはアイドル
江戸時代、侍は皆の憧れだったんだ
けれどそれは狭き門。二世三世でも無い限りは、オーディションで認められ、コネを築くしか無い。
自分はつまらない寒村に生まれた。何をするにしても見えないヒエラルキーがあり、何を決定するにしてもその場の空気。主体性はさも心の病気扱い
そんなクソ田舎の、底辺な家庭のさらに底辺が、自分だ
電波も届かず、EHK(江戸放送協会)と百姓放が一局しかない。それでもしがない田舎娘は、箱板を娯楽にするしかなかった。侍に憧れを持つに至ったのは、当然の流れだ…
結果的には、10代は無駄な時間を過ごしてしまった。歌もダンスも、あらゆるオーディションに落ち続けた
数年前まではお互い支え合ったライバルは、一足先にデビューを果たし、今では子供のヒーロー侍の女性初グリーンだとかでチヤホヤされている。自分の事などもうとっくに忘れているだろう
最後のオーディションは、扉を開けた途端に理由も告げずに「もう決まったから」の一言で終わらされた。何の意味があってのオーディションだったのか?
実力至上主義の侍世界だからこそ、憧れたのに。あからさまに何も芸事が無い人間が選ばれる。
自分の何がいけなかったのか?何が選ばれなかったのか?誰も説明してはくれない
いろんな資格も取得した。忍者、恐竜、陰陽師……バイト先からは「いっそ正社員になりなよ。才能あるよ?」と勧められたが、夢の為に断ってきた。自分がバカだった…
そんな失意の折自棄酒を煽りながら酔っていると、覆面を被った不審な男が同席した。
「隣、よろしいですか?」
よろしいも何も無い、他に空いた席はないのだから。顔を隠すだなんて、侍を目指していた自分には考えられなかった。住む世界の違いを感じた。それで自分から話しかけてしまった…
「フリーランスの、まぁしがないアングラ記者みたいなものです。カスカベといいます」
「アングラ記者?」
身の上を語ると、快く聴いてくれた。
「主に侍の闇とか。不祥事を取材します。私は業界と呼んでいますがね」
侍に、闇?闇なんてあるのだろうか?瓦版などではなく電子ネットで収入を得ているという。故郷でそんな人間は、オタクよばわりされて人権剥奪扱いだ。
大昔、宮内事件とかいう有名な凶悪事件があった。女児児童が寝ている間部屋に忍び込み、外科手術で心臓に巨乳型爆弾を植え付け、翌朝から走り続けなければ女児は爆破して死ぬ。この事で性的に興奮するという卑劣な事件があったのだ
押収したビデオテープにアニメと特撮番組があったことからオタクは犯罪予備軍扱いに………
「あれはね。業界のなかで足の引っ張り合いがあったんですよ」
「あと瓦版が情報を売る為には、同じ庶民同士が対立構造にあって警戒しあってるほうが都合が良いんです」
といって、写真を見せてくれた……。疲れからか、悲観からか。彼の話に興味が沸いてきた。
「侍は……人を護ったり楽しみを提供してくれる、皆の憧れではないのですか?」
彼は少々難しそうにした
「そういう、羨望される世界は得てして闇があるものです」
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気がつくと自分は、特急を降りて彼に付いていっていた。
怖さ半分、ただどうせ帰る宛もない。彼は侍社会を暴いて、人に啓蒙することが仕事だという。犯罪だとかテロリズムではなく…
ただ、裏の顔を知りたいならもう後戻りは出来ないと警告はした。自分はそれを受け入れようと思う
カスカベという男が向かったのは、自分が最後にオーディションを受けた事務所だった。清掃員の格好をし、危うげなく潜入。
何故この人はこんなにも手馴れているのだろう?普段からやっているのだろうか・・・
「しかけた盗聴器を回収する」
そういって怪しい自家製の端末をタイピングし始めた。オタクの世界はよくわからないが、アギ葉原とかヨドゥンカメラでみそうな電子基板剥き出しだ
「昆虫を模したドローンに、小型の映像や録音機材。壁に張り付く吸盤、それを遠隔操作する無線技術。一つ一つはありふれた技術で大したことはない。だが組み合わせると…」
虫の脚をガラスに当て、その振動から音を採取していたらしい。確かにオーディションのさなかに、窓に張り付く虫を気にする娘なんていない
<><>記録:幕末14年2月1日9:00PM<><>
『あの………明日のオーディション…』
自分の次のナンバーの子だ!!日付は昨日の夜!審査員と狭い客室で会話している。事前に合っていたのか!
『あ~わかったわかった、悪いようにはしないから。まずはキッスしながら尻を鰆せてくれ』
キスした!あいつらそういう関係だったのか!嫌を承知で鰆れている。
「侍に成れるような人も、結局は同じ人でしかない。歌もダンスも努力すれば上達する。そこに才能の違いなんてあるかないかなんて、本当は誰も気にも留めていないんだ。それがこれだ。オーディションの場にいる時点で、実力も容姿も大した違いなんてない。そのなかから誰か選ぶとしたら・・・?」
「個人的な・・・・・・感情」
涙を流しながら、震えながらカラダをまさぐられている。そういうのがそそるのか、一層ヒートアップした。こうまでして自分は侍になりたいだろうか・・・?
最早最後までみる必要はない。侍に憧れていた過去の自分、成れなかった無念、すべてが虚構だったのだ。自分は不遇な人生を生きてきたのですらない。もともと碌に生まれてもいなかったのだ
「ところでよければ」
カスカベが自分の思考を読んでいるかのように語り掛ける。
「せっかくここまでついてきてくれたよしみで話すのだが。」
「はい」
「私はこういう、侍の気質が我慢ならない。君もそうだろうし、無関心でいられる百姓などいないだろう」
「そう・・・こんなことが明るみにでもなれば、侍全体への信用が…」
「私は、明るみにする組織を立ち上げたいと思っている」
失うものもなにもない自分。捨てる神あれば拾う神ありというが、
「よければ手伝ってくれないか?」
侍に願望を持っていた、こんな愚かな自分を拾ってくれるというのか?自分でよければ・・・
「自分は、ムラ村のアックといいます」
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2月2日。S.I.Dは人知れず誕生した。最初は事務所もなにもない。カスカベとかいう素顔を見せない男(あからさまに怪しいが、かえってこちらの信頼を委ねている点ではまだ、侍よりは信頼できる)の祖先が代々砕石していたらしい遺跡から始まった。
インターネッツのアングラを通じて暗号通信にて仲間を募り、5年後には秘密結社として発展した
全ては侍の闇を暴くために‥‥
このお話は、フィクションです
実在する侍や侍社会を批判するものではありません!