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第2話 交わる宿命

昼過ぎのオフィス。魔堂零士は、薄暗い会議室に部下たちと共に座っていた。目の前には、課長の野村達也が腕組みをして立っている。その表情には苛立ちが色濃く表れており、机の上の資料を指で叩く音が、空気をさらに重くしていた。


「なんだこの数字は! 売上目標に全然届いてないじゃないか!」


野村は怒声を上げながら、部下たちを順に睨みつける。零士の左隣に座る藤崎翔太は、肩を縮めて黙り込んでいた。彼の顔には明らかに怯えの色が浮かんでいる。


「係長! あんた、部下の指導がなってないんじゃないのか?」


野村の矛先が零士に向けられる。零士は、至って冷静な表情のまま課長を見上げた。その視線は、まるで「相手を見透かす」ような鋭さを持っていた。


「野村課長、その数字の低下は、現場のモチベーション不足が原因だと分析しています」

「……なんだと?」

「部下を信頼せず、ただ怒鳴るだけでは数字は上がりません。課長がそれを理解すれば、少なくとも現状を打破する一歩になるでしょう」


一瞬、会議室の空気が凍りついた。部下たちの顔が強張り、野村は目を丸くして零士を睨む。

「お前……今俺に説教してるのか?」


「いえ、ただ事実を述べただけです」

零士の冷淡な声が静かに響く。


野村はその場で言い返すことができず、舌打ちをして席に戻った。会議室全体に重苦しい沈黙が流れる中、零士は何事もなかったかのようにメモを取り始めた。その様子を見た藤崎は、小さな声で呟く。


「マジで空気読まないっすね、係長。でも……なんか助かっちゃったな」





放課後、歩は風紀委員室にいた。部屋の中には、彼と副委員長の真島エリカ、そして数人の風紀委員が集まっていた。彼らはそれぞれ仕事をこなしているが、どこか気だるげな雰囲気が漂っている。


「山田委員長、今日もスカート丈注意したんですか?」

エリカが軽い口調で話しかける。彼女は書類を整理しながら、目だけを歩に向けていた。


「当然だ。規則を守らない行為は、平和を脅かす」

歩はきっぱりと答える。


「いや、でも生徒たちにはちょっと怖がられてますよ。『魔王みたい』って言われてるの、知ってます?」


その言葉に、歩は一瞬反応を見せなかった。だが、すぐに顔をしかめた。

「魔王とは……規律を乱す者を指す言葉だ。私は正義を守る立場にあるのだぞ」


「うん、それはわかるんですけど。やっぱり怖い感じが出ちゃうのが問題なんですよね」

エリカはため息をつきながら、ペンを指で回した。


「怖さではなく、規律の重みを伝えているだけだ」


「そう思ってるの、山田委員長だけかも……」


エリカの軽い皮肉に、歩はそれ以上答えなかった。彼の中には、一つの疑問が生まれていた。


(規律を守ることが正しい。それなのに、なぜ周囲は理解しないのか……?)





その午後、体育館ではキャリア説明会が開催されていた。壇上には、いくつかの企業の代表者が順番に登壇しており、企業の方針や理念を説明している。


「次の方、どうぞ」


司会の声が響き、壇上に一人の男が現れた。そのスーツ姿は一見平凡だが、彼の佇まいにはどこか異様な迫力があった。魔堂零士。その冷たい目線と静かな歩みは、異世界の魔王だった頃の威厳をわずかに残している。


零士が話し始めると、体育館の空気が変わった。彼の低く通る声は、学生たちに異様な集中力を生ませる力があった。

「……我が社では、規律と信頼を重んじ、効率的な業務を追求しております」


その言葉を聞いた瞬間、体育館の後方に立つ歩の表情が強張った。彼は零士を見つめ、その存在を確信した。


(ゼルドリス……!)


一方、零士も壇上から歩の姿を捉えた。その瞬間、彼の目がわずかに細められる。

(アルヴィン……いや、山田歩か。なぜここにいる?)


歩の中には、異世界での記憶が鮮明に蘇っていた。闇の軍勢を率い、多くの人々を蹂躙した魔王。その力に全力で抗い、ついに倒したあの日。だが、今その魔王が目の前で「平和」について語っている。


「貴様、ここで何をしている!」

思わず声を上げた歩に、周囲の生徒たちは驚いた表情を浮かべる。彼らにはただ「風紀委員長が企業の人に対して無礼を働いている」としか見えなかった。


壇上の零士は、その声にゆっくりと応じた。

「貴様こそ、なぜここにいる。勇者アルヴィンが、この平和な世界で何をしている?」


その静かな声は、歩だけでなく体育館全体に響き渡った。だが、生徒たちにはその言葉の意味が理解できない。ただ「奇妙な会話」として受け取るばかりだった。


「山田委員長、大丈夫ですか?」

エリカが心配そうに声をかけるが、歩は零士から目を離さなかった。かつての戦場で繰り広げられた宿命の戦い――それが現代の平和な学校で再び火を灯した瞬間だった。

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