⑥蛮族の襲撃
「ここには王国の知る歴史が全て記されているわ」
デルは本棚に顔を近付けると前のめりになりながら背表紙の巻数を指で数え、本を手に取る。彼は興奮も冷めないまま適当に本をめくって読んでいくと、ある事に気付いた。
「おい、12巻がないぞ」
別の場所に紛れているのかと、デルは最後の巻までを確認したが、やはり一冊だけが見つからない。
「12巻は………ここにはないわ」
当然気付くと思っていたと、フォースィが素直に答えた。
依頼で納めるべき本は、彼女が肩からかけている革鞄の中に入ったままである。魔王軍の存在について信じてもらう為の効果的な方法とはいえ、本来はこの部屋の存在を教える事だけでも大きな決断であった。
「12巻の時代はね、その殆どが失われているの。あの時代に何が起きたのか、誰がカデリア王国との戦争を終わらせたのか、その真実を誰も知らない」
全てを伝えるにはまだ早いと、フォースィは自分が今まで調べてきた内容の一部を伏せながら説明する。
「フォースィ………お前は一体」
デルがその先の一言を発しようとした時、階段の上から長い笛の音がこの部屋まで届いてきた。
「………何、この音は?」
「まさかっ!?」
フォースィが音に耳を澄ませようとすると、デルは真っ先に部屋を飛び出していった。
デル達が倉庫の扉を開けて外へ飛び出ると、そこは既に戦場と化していた。騎士達は装備の準備に関わらず、鉄の全身鎧を纏った重装オーク達と剣を交わしている。
デルは広場で会ったバルデックから報告を受けると、彼から剣を受け取った。
オークの装備からして、ゲンテの街を襲った魔王軍と同じ者達だろう。フォースィはその事に気付きながらも、何故この場所が見つかったのかと疑問をもつ。だが今は敵を撃退しなければと割り切り、表情が自然と険しくなった。
「………私も行くわ」
フォースィは肩にかかる黒髪を後ろへと払い、一人で行こうとするデルに声をかける。
「いいのか? ちなみに報酬は出ないぞ?」
デルは足を止めて振り返ると両手を広げ、困った顔をつくる。
「構わないわ。貸しにしておくから」
フォースィは彼にそう言ってわざとらしく笑い返し、集落の入口へと向かった。




