②十年ぶりの再会
扉を開けた先は、集落の広場に繋がっていた。
フォースィにとって、既に夜になっている時間だったが、星どころか空すら見えない。樹齢千年以上を越える木々の生い茂った葉によって隠されているからだ。
大木に囲まれた空間に作られた集落、それが『始まりの地』と呼ばれる場所であった。
フォースィは偶然広場にいた男と目が合う。男は倉庫から出てきた見知らぬ女性に驚き、警戒していたが、彼女は胸の前で指を左右の肩に触れて祈ると、自分から名前を名乗った。
「驚かせて申し訳ありません。私の名はフォースィ。冒険者ギルドの依頼により、王家の本をこの地に納めるよう依頼を受けています」
その言葉に、男は別の意味で驚く。
「まさか………陛下の身に何かあったのですか?」
この集落では代々、王国の歴史を記した本を保管する場所でもあった。本は国王の代ごとに巻数が割り当てられており、巻が変わることは即ち国王の崩御を意味する。男が驚くのは当然のことだった。
フォースィは言葉が足らなかったと男に謝り、改めて持ってきた本が過去のものだと説明する。この世には存在していないことになっているため『12』という数字は口に出していない。
「………分かりました。それでは村長の下へご案内します」
事情を飲み込めた男は、小さく頭を下げると彼女を客人として扱い、村長の家へと案内し始めた。
集落の入口の通りと広場の入口と交わる二階建ての木造の建物。以前、彼女が休ませてもらった時と何一つ変わらず、ただ木造の表面だけが色褪せて十年の時を静かに感じさせている。
男は扉を小さく叩くと、白く長いスカートを揺らしながら黒い長髪の女性が姿を現した。女性は扉を叩いた男から事情を聞くと表情を僅かに変えて頷き、後は引き継ぐと男を帰らせる。
「フォースィさん………でよろしいかしら?」
家からて来た黒髪の女性は改めて名前を確認した。
フォースィが小さく頭を下げる。
「急な訪問、申し訳ありません。本日は『とある方』からの依頼で名前のない本をお届けに参りました」
彼女は十年前と同じ言葉を使った。
村長の家に住む者なら、この表現で何の話かを察する事ができる。
「成程。本当の話のようですね」
女性の表情が柔らかくなる。そして何かを懐かしむ様に、女性はフォースィの顔を見て微笑んだ。
「あら、思い出せませんか? フォースィ様とは十年前に会っていますよ?」
視線をずらし、フォースィは急いで記憶を遡る。そして十年前、村長の家にいた黒髪の少女を思い出した。
「まさら………プラウ?」
それしか名前が思い出せず、フォースィは小さく呟く。
「ええ。久しぶりね」
プラウは紅い神官服を包み込むようにフォースィを抱きしめた。
「そんな軽装でここまで来るなんて………また無茶をしているの?」
服の色からでは分かりづらいが、紅の神官服は血と泥、汗で汚れており、匂いもそれなりだった。それでも彼女は気にかける事なくフォースィを包み、友人の帰還を祝福した。
「………あなたも元気そうで何よりだわ」
フォースィはゆっくりと、相手が気を悪くしないようにプラウの肩を押して体を離す。
「取り敢えず色々と説明する必要があるわ………中に入っても?」
不眠不休で動き続けてきたフォースィは疲れた表情を半分程奥にしまい、プラウに笑みを見せた。彼女は興奮が冷めないまま『もちろん』と答え、フォースィの背中を押しながら家の中へと案内する。




