⑮さらに東へ
「………他ならぬ命の恩人の頼みだ。その依頼、受けてやるぜ」
戦士の一人がフォースィの手のひらから麻袋の口を握る。
「おいおい、随分と入ってるな」
彼女の掌から浮いた袋の重さから、男は中を確認すると、思わず彼女の顔を見つめた。
他の冒険者が一斉に戦士の下へと集まる。
袋の中は、数人の上級冒険者に依頼してもお釣りがくる程の金貨が数十枚も入っていた。
「どうやら、他の冒険者も行くらしいな」
中身に釣られて動いた冒険者達の動きが一斉に止まり、戦士の言葉に一杯食わされたと顔を手で覆い、溜息をつく。
「分かった分かった。その代わり、報酬は最後まで生き残った奴で山分けだからな」
諦めたかのように盗賊の男が笑い、勝手に条件を付け足した。
「お、言ったな? 普通、そういう言葉を吐いた奴が最初に死ぬんだぜ」
「言ってろ。一番装備が薄い魔法使いに言われたくねぇな」
他の冒険者達も仕方がないと互いに貶し合いながら笑い、フォースィの依頼を引き受けた。
「それで、あなたはどうするのですか?」
弓兵がフォースィに尋ねる。
「私はこれから東門を抜け、騎士団と合流します。あなた達は、イリーナを保護でき次第、すぐに西門に向かって街を脱出してください………ええ、大丈夫です。あの子には私とはぐれた時の指示を出していますから」
いつか必ず合流できる。そう最後に言葉を加えた。
「じゃぁ、元気でな。また一緒に組める事を期待しているぜ」
「ええ。この依頼が上手くいったらまた雇う事にするわ」
麻袋を受け取った戦士とフォースィは短く手を握る。
「よし、いくぜ野郎ども!」「………女もいるんですけど」
僧侶の女性が小さく呟きながら、冒険者達は南の大通りに向かっていった。
「………イリーナ、必ずタイサの下に行くのよ」
フォースィは踵を返して東の大通りを目指す。
向かうは本を納める『始まりの場所』と呼ばれる秘密の集落。そこへは、街の東門から出て北西にある森の中にある洞窟を抜ける道が最短となる。
あの日を思い出す。彼女はかつて昔に辿った道を歩き始めた。




