⑪命を賭ける
「さぁ、何秒? 何分? それとももっと頑張れるかなぁっ!?」
ビフロンスの笑顔と共に、不死者達が一斉に襲い掛かった。
「来るわよ!」
フォースィが魔導杖を天に掲げる。
「大いなる御業よ。我らに邪を払う加護を!」
魔導杖が一瞬だけ光り、彼女を含む全員の頭上から足元へと白い魔方陣が通過する。
「こ、これは………」
バルデックや冒険者達が自分の体に包まれた淡く白い光に驚く。
「攻撃、防御、速度増加の加護。さらに複数回の攻撃に耐えられる魔法障壁を一斉に付加させたわ!」
大量の魔力消費に胸を押さえ、眉をひそめながらフォースィが簡潔に説明する。
「では、また後で!」
バルデックは剣を掲げ、他の騎士達と共に中央広場に突撃、敵の注意の半分を向けた上で東の大通りを目指した。
「それで、俺達はどうすればいい」
力が溢れ出る興奮を抑えながら、冒険者達がフォースィに顔を向けて指示を待っている。
「どうすれば良いも何も………簡単よ。私と一緒に中央広場の中心まで来てもらうわ。そこで五分、いいえ四分だけで良いから時間を稼いでちょうだい」
そうすれば不死者達を一掃できる。深呼吸しながらフォースィは言い切った。
「………分かった。俺達の命、あんたに預けるぜ」
名前も知らない、名乗らない冒険者達が一斉に頷き、各々の武器を手に取る。
「行くぞ、お前らぁっ!」
剣と斧を持った数名の冒険者が命を賭けた咆哮と共に先陣を切った。
続いて左右に盾を持った戦士が何人か続き、フォースィはその後ろを走る。最後は背後に蓋をするように僧侶や魔法使い、弓兵が続いた。
「へぇ、随分と思い切った事をするね」
家屋の上と下に立つ二人は、人間達が二手に分かれた動きに興味を示しつつもその場を動かない。あくまで不死者達に人間を襲わせるという方針を変えなかった。
幸い、不死者達の動きは随分と遅い。一度抜けてしまえば、彼らは追いかける事が出来ない。戦いながら気付けたフォースィや冒険者達は、正面と側面にだけに注意を払い、足を止めないようにと不死者達を雑草のように切り開いていく。
だが、それでも足を取られた冒険者や体を掴まれた冒険者が転倒し、脱落していく。彼らは自分の最期を確信しながらも、不死者の動きを阻害しようと最後まで抗うが、最後の障壁を失うと成す術もなく食われていった。
「糞がぁぁぁぁっ!」
「振り返らないで! とにかく走りなさい!」
戦術も何も必要ない。迫り来る数百人の死体の群れを掻き分け、少しでも隙間のある部分を狙うように蛇行しながら進み続けるしかなかった。
ついに中央広場の中心に辿り着く。ここからは広場の全てを見渡す事が可能だが、不死者達はフォースィ達を中心にして囲むように近付いて来る。
「円陣を組め!」
冒険者の一人が叫んだ。それに合わせ、生き残った十名弱の冒険者達は、戦闘力のある戦士や盗賊を外円に、内側に僧侶や魔法使い、弓兵を配置し、円の中心に最後の砦のフォースィを立たせた。




