⑧ゲンテ防衛戦 -断罪の雷剣-
「お師匠様!」
最前線にいた冒険者達と共に、イリーナが慌てて戻って来る。彼女の鎧は蛮族の血と土で汚れていたが、目立った怪我はなかった。
「フォースィ殿!」
遅れて後方にいた銀龍騎士団のバルデックが合流してくる。彼の鎧も随分と汚れており、逃げ惑う冒険者達の姿を横目にしながら、この場所が限界だという顔を見せていた。
フォースィも同様の結論に達している。だが、このまま全員が闇雲に逃げれば重装オークとトロールらが中央広場に攻め込んでくる。
それだけは絶対に防がなければならない。
「イリーナ」
フォースィは覚悟を決めて一人の少女に声をかけた。
「剣の使用を許可するわ。ここの敵を任せても良いかしら?」
「フォースィ殿っ! それはあまりにもっ」「分かりました、お師匠様!」
バルデックが口を挟むが、イリーナがまるでお使いに行く子どもの様にそれを了承し、二重にバルデックを驚かせる。
「お師匠様は、中央の広場に行かれるのですね?」
「ええ。後退する冒険者達を率いて、住民や騎士団と合流するわ」
そして東門に向かって脱出する。そう言い切った。
「ならば我々騎士団もここに残ります!」
バルデックは剣を掲げてフォースィに提案するが、彼女は首を左右に振る。
「騎士団のあなた方は、住民達を西門へと脱出させる為の囮を務める使命があります。このまま、私と共に中央広場に来てもらうわ」
ここに残っても邪魔になるだけだと厳しい言葉も投げる。
前衛のトロール、後衛のオークが目の前まで迫っている。最早議論するだけの猶予はなかった。
イリーナは腰の蒼い鞘、その中に納まっている剣の柄に手をかける。
「イリーナ! もしもはぐれたら………分かっているわね!?」
「はい! お師匠様も気を付けてください!」
イリーナが剣を一気に引き抜く。
その刀身は蒼白い光に包まれ、見る者全てを引き寄せる説明できない力を感じさせた。
「いきます!」
イリーナが中央広場への道を塞ぐ重装オークの前に出ると、大きく剣を振りかぶった。
「断罪の蒼剣。第一の裁き!」
言葉と同時に、蒼い剣の先端から巨大な球体が発生する。球体は空気を吸い込むように大きく膨れ上がり、次第に放電を始めた。
次に剣が振り下ろされ、雷球が放たれる。雷球は地面を巻き削りながら重装オークを次々と飲み込み、炭化、塵へと変えさせていく。雷球に触れなくとも、近くにいた重装オークは空気中を走る放電によって雷撃を受け、鉄鎧の中を等しく黒焦げにしていく。
「行くわよっ!」
フォースィの声に、呆気に取られていたバルデック達騎士団と、生き残っていた冒険者達は我に返り、雷球が通った荒道を走り抜ける。
殿を務めるフォースィが振り向くと、イリーナが微笑みながら手を振っていた。




