⑤攻守両立
「撃退は騎士団に、住民の避難が俺達冒険者で担当するとして………問題は、避難の方法と方角だ」
ギルドのオーナーが、街の中央に置かれた白い石を全て東門へと動かした。
「やはり、今朝出発した銀龍騎士団と合流すべきじゃないか?」
「………いや、住民達を連れて行きながらでは、先発した団長達に追いつけない」
エーベルンは東門に集まった石を反対側に動かした。
「ここは西門から住民達を避難させ、王国騎士団の本隊、その先のシモノフの大関所方面に向かわせた方が良いだろう」
「どちらも駄目よ」
フォースィは二人の意見を即座に却下する。
「敵の主力はまだ南にいるはず。まずはこの南の蛮族を叩きましょう」
そして敵を南に集中させた所で引き返し、住民と冒険者を西門と北門へ、騎士団は蛮族を誘導する為に東門へと三方向に分けると説明する。
「南の主力を叩けば、敵の指揮は一時的に混乱するはず。蛮族達が四方に散っている事を今度はこちらが逆手に取ってあらゆる方向から逃げるのよ」
時間が経てば経つ程、蛮族達は中央に集まり指揮系統がまとまっていく。そうなれば退路はなくなり、住民を守りながら戦い続けるようになった時点で、敗北が確定する。
ギルドのオーナーもエーベルンも彼女の意見を否定できず、しかしと唇を噛みながら、答えを絞れない。
「大変です!」
体格の良い、しかしやや背の低い騎士が部屋の中に入ってきた。
「南門が開けられ、蛮族の群れが姿を現しました! その数およそ二百!」
フォースィの予想通りに、主力が南から進軍を開始する。
「ほら、早く決めた方が良いわよ」
フォースィが二人を急かした。
最悪イリーナと脱出する選択肢も残っている。わざわざ口にする事もないが、彼女は忘れずに記憶の隅に置いておく。
「分かった。南門に攻勢をかけよう」
エーベルンが決断した。ギルドのオーナーも腹を括ったかのように頷き、彼の決断に賛同する。
「ならば南門は冒険者ギルドで対応する。既に多くの冒険者達が向かっているから丁度いいだろう」
「では、銀龍騎士団は南から逃げてくる住民の誘導と中央広場の防衛、さらにこの後の避難準備に取りかかる」
そしてエーベルンが、先程報告に来た騎士を呼びつけた。
「バルデック!」「は、はい!」
呼ばれるとは予想していなかった騎士は、思わず背筋を伸ばす。
「お前達の小隊は連絡要員として冒険者達と共に南門に行ってくれ」
「分かりました、すぐに部下に伝えます!」
バルデックは急ぎ部屋を出る。
「それじゃぁ、私達も南門に向かうわね。イリーナ、行くわよ」
「はい!」
フォースィは魔導杖を一回転させると元々握っていた角度に止め、イリーナを連れて建物を後にした。




