③神官の務め
扉を抜け、廊下を歩きながら神父が事情を口にし始めた。
「実は先日。南の森で木材を採りに向かった街の者達がゴブリン達に襲われ、大怪我を負ってしまいました」
木材や木炭を商売にしている五人の住民が、いつものように森に入った所、三人が血だらけで街に帰って来たのだという。
「そう言えば街に着く前に、騎士団の方とすれ違いました」
「えぇ。まだ二人の行方が分かっていませんので………それに、戻って来た者もかなりの重傷で、私程度の治癒魔法では、残念ながら手に負えません」
このままでは三人の命は長くない。そう神父が言い終えると、部屋の前の廊下に置かれた長椅子に女性や子ども達が何人も座っていた。
「怪我をした者達の家族です。毎日、交代で包帯の交換等を手伝ってもらっています」
女性達は神父の姿を見ると静かに立ち上がり、深々と頭を下げる。
フォースィも会釈を返した。
神父が振り返る。
「フォースィ殿。神官の務めとして、彼らの命をどうか救っては頂けませんか?」
巡礼の旅を行う神官は、街々で教会に立ち寄り、住民を救済する事を義務としている。これを『神官の務め』と呼び、神官が持つ知識を住民に伝えたり、怪我をした者を治療したり、ある時には街の清掃すらも行う。そして、食料や水、細やかな金銭を布施として住民達から施してもらい、次の街へと向かうのである。
特に巡礼を行う者は、地図にも載らない集落の救済や、地元の教会では手に負えないような事態を解決する事が求められる。故に、巡礼を行える者は、自然とそれなりの実力をもつ者と扱われる。
フォースィは目を細め、微笑む顔をつくる。
「分かりました。私にどこまで出来るか分かりませんが、力を尽くしてみましょう」
「ありがとうございます」
神父と共に、女性達も深々と頭を下げた。
フォースィは怪我人が運ばれた部屋の扉を開ける。
石材で組まれた部屋は目だった家具もなく、一見綺麗に保たれているが、そこは血と死の匂いで充満していた。
「………ひどい怪我ね」
ベッドで横たわる三人の容態を確認する。いずれも、腕や足の片方ずつが包帯で包まれていた。
包帯を替えていた家族の話によれば、蛮族に手足を何度も酷く切りつけられたのだという。解毒は既に済んでいるが、未だに出血が止まらず、包帯の半分以上が赤く染まっている。右腕を斬られている者は左足を、左腕を切られている者は右足を斬られていた。
「………まるで、狙って付けたかのような怪我」
怪我の状況は酷いが、もう一方の手足には傷一つ見えない。さらに彼らが受けた傷は、どれもその場で倒れる程の致命傷ではなかった。
普通のゴブリン達ならば、相手が動けなくなるまで首や腹部といった急所を徹底的に狙ってくる。
フォースィは彼らの傷が、どれも共通している事に違和感を覚えた。