⑥フォースィとデル
王国騎士団の中でも『色付き』と呼ばれる実力派の銀龍騎士団。
その活動は平民だけでなく貴族からも人気があり、その騎士団を束ねる騎士団長のデルは、冒険者時代からの仲であった。
ならば話は早い。フォースィはデルに蛮族に関する情報を投げかける。
「………そうか、オークか! 確かに奴らなら長槍くらい作れるはずだ!」
案の定デルの目つきが変わった。
銀龍騎士団程の実力をもった騎士達が大人数で東の果てまで来た事を考えると、王国騎士団が蛮族に対する大掛かりな作戦を仕掛けようとしていると予想したフォースィの考えが的中する。
デルは額に手をつきながら、王国騎士団の大遠征、そして既に最前線にいる彼の部下達が蛮族に苦戦させられている事をフォースィに説明した。
デルにもタイサの報告書が届いていたらしい。そしてマドリー校長から得られた蛮族の活性化、ブレイダスに向かう先で経験したゴブリン達の巧妙な襲撃を線で繋ぎ、フォースィは騎士団にも蛮族の動きが、これまでとは決定的に異なる事を喚起する。
「これから戦う彼らは、今までの彼らではないわ。ただの蛮族だと思って戦おうとすると痛い目に合うわよ」
自分自身も経験したことを踏まえ、フォースィは冒険者時代のよしみからデルに忠告するようにゆっくりと言葉を続けた。
「どういうことだ? フォースィ、お前何を知っている」
デル自身は活性化した蛮族と出会った事がないらしく、彼は眉をひそめたままフォースィを睨む。
「さぁ? でもかつての戦友として話せる範囲では警告したわ………そうね、私だったら自分よりも賢い敵だと思って戦うわね。それ以上は、自分で考えて頂戴」
大層な言葉を使ってみたが、フォースィ自身も蛮族がどこまでの力を秘めているのか把握していない。だが少なくとも魔王と共に戦ってきた蛮族達、そして実際に見てきた光景から決して侮ってはならないという勘に近い答えを、最大限の助言として彼に送る。
デルはフォースィの性格を理解した上で彼女の言葉の意味を考え、椅子に体を預けた。
「分かった。聞きたい事は山ほどあるが、お前がそう言うのだから今の内容はあながち嘘ではないのだろう」
今日の内に銀龍騎士団の中から先発隊を編成して出発すると、デルがフォースィに伝える。そして腰を上げて埃を叩くと、感謝の言葉の後に彼女の顔を見上げる。
「できればお前には後衛の部隊の護衛を頼みたいところだが………」
「あら、きちんと報酬を払う依頼なら受けて立つわ」
フォースィは意地悪く微笑んで見せた。
そう言うと思ったとデルは、左右のズボンのポケットに手を入れると何も入っていない裏生地を見せてた。そして、代わりにと騎士団の物資を分ける提案を持ち掛ける。
「そうね………考えておくわ」
物資が高騰しているこの状況で、その提案は決して悪くはなかった。フォースィは彼の提案に半ば同意しつつも、即答を避ける言い回しで会話を切った。
デルも『それで十分だ』と答えると、踵を返して教会の出口を目指していく。




