⑤銀龍の騎士
西の空が赤くなり始めた時、西門に人だかりができている事にフォースィ達は気付く。
昼食を済ませてから数時間。洗濯を終えた神官服に着替えたフォースィ達は、冒険者ギルドを中心に情報を集めながら、この時を待っていた。
目的地である東の集落を目指しても良かったが、彼女は王国騎士団が街の宿を貸し切る程に動いている理由を確認しておきたかった。
差し押さえていた宿の数からして、百人程度の規模ではない。そしてこの街を出発すれば、この先街らしい街はなくなる。東の果てまで来た王国騎士団の大規模な動きを把握しないまま、旅を続けたくはなかった。
フォースィはイリーナと共に人だかりの中に姿を潜め、西門から入ってきた騎馬達を目で追う。
彼らは黒銀の鎧を身に纏い、住民達の声に応えるよう手を振っていた。
「成程、銀龍騎士団だったのね」
騎馬の先頭で歩いている焦げ茶色の髪をした細い騎士を見たフォースィは、もう結構と人だかりを抜けて南の教会を目指した。
「………イリーナ、ちょっとお使いを頼まれてくれるかしら?」
南の大通りを歩きながら、彼女はイリーナに銀龍騎士団の団長を例の教会に連れてきて欲しいと説明する、
「分かりました!」
イリーナも二つ返事で答えた。
彼女は夜の小話で、団長であるデルの存在について何度も聞かされていたが、実際に会うのはこれが初めてであった。いつもの『お話』に出てくる人と会えると分かり、イリーナは鼻歌交じりの上機嫌で大通りを飛び跳ねて進んでいく。
「………まぁ、大丈夫でしょう」
一抹の不安は残るものの、フォースィは顔だけ振り返り、飛び跳ねるイリーナの後姿を目で追った。
――――――――――
「あら、随分と遅かったのね」
穴の開いた教会の天井から漏れる月の光が、黒銀の鎧を照らす。司教が立つ主祭壇の前で、フォースィは一人で現れた黒銀の騎士団長に声をかけた。
「………まったく、師匠に似て弟子も下品になるとはな。可哀想に」
何の事か分からないが、銀龍騎士団の騎士団長デルは茶色の髪を捲し上げながらフォースィの姿を見るや、苦笑いをしながら失礼な言葉を吐く。そして、比較的無事な椅子の埃を追い払って腰かけ、『何の用だ』と堂々と足を組んだ。
「お師匠様、言いつけ通り連れてきました」
「えぇ、ありがとう」
イリーナはフォースィの傍に戻ってくると、お使いに帰ってきた子どものように成果を報告してきた。彼女はイリーナの頭を撫でると、周囲の警戒にあたるよう指示した。
「下品? とてもいい子じゃない」
壊れた壁から外へと飛び出していった背を見ながら、フォースィは小さく笑い返す。
「良く言うぜ。あんな言葉を覚えさせておいて」
妖美な女神官の笑みに、デルは半ば呆れたように両手を開く。
ようやくフォースィは彼の話が見えた。
「あんな言葉? ああ………あれね。この前王都でギュードと会った時に、彼があなたの事を話題にしていたのだけれど、違ったかしら?」
とりあえずギュードのせいにしておく。




