孤独の一撃
「隊長! 今、回復を」
「………やめろ」
震える隊長の腕が、フォースィの魔導杖を掲げようとした腕を掴んだ。
「昨日の戦いで蛮族からかけられた呪いを忘れたのか? そんな状態で魔法を使えば魔力の消費は倍以上だ」
既に王都から出て何度魔法を使ってきたのかと隊長は彼女の姿を指さした。二十代半ばで出発したフォースィは途中で二度も服を買い直し、今では十代半ばまで体を小さくしている。
加えて不覚にも先日の戦いで、瀕死の呪術師のゴブリンから呪いの血を浴びた事で、『魔法封じ』をかけられていた。普通の魔法使いならば魔法すら使えないが、彼女の異能により魔法は発動するものの、威力が激減し、かつ魔力消費も増加している。
「………本を頼む」
隊長はフォースィを突き飛ばした。同時にトロールが隊長の男の胴を握ると再び壁に叩き付け、巨体と壁で挟み込む。
だがトロールはそのまま動かず、隊長の男よりも先に地面に横たわった。
「へっ、ざまぁみろ………だ」
隊長の手には予備の剣が抜かれ、剣の柄を壁に当てていた。トロールは自分の突撃が仇となり、彼が構えていた剣に自ら突き刺さりに行ったのである。
地面に落下した隊長が僅かにフォースィを見ると、そのまま動かなくなった。
残るは二人のみ。
「このぉ、放っ………せぇ!」
フォースィは女性の声を聞き、すぐにその方向を向く。
軽戦士の女性はトロールに頭を掴まれ、それを振りほどこうと緑色の腕を何度も叩いていた。
だが彼女はそのまま地面に振り下ろされると、とどめとトロールの巨大な足が彼女の顔を踏み潰す。トロールの足からはみ出ていた手足が何度か小刻みに痙攣していたが、やがてそれも動かなくなった。
残りは一人。
左目を失ったトロールが息を切らせながらフォースィに近付いてくる。
「………ここで終わる訳にはいかないのよ」
十代の体では、いや二十代の体であっても、トロール相手に接近戦を挑む訳にはいかない。フォースィは魔導杖の先端をトロールに合わせた。
呪いが駆けられているかどうかはもはや関係がない。ここで使わなければ待っている未来は確実な『死』である。
フォースィは呪いの苦痛に耐えながら周囲のクレーテルを集めると、覚悟を決めた一撃を放った。




