②朽ちた教会
「申し訳ありません。既に部屋は一杯なのです」
街の中央。時計代わりの鐘楼がある立派な教会を訪れるや、中肉の神父に断られる。
申し訳なさそうな表情をつくる神父が弛みかけた口で説明するには、冒険者や商人等、宿をとれなかった人々が既に先客として寝泊まりし、礼拝堂の広場まで雑魚寝しているという。
「神官様や聖教騎士団の方を、女性や子どもが寝泊まりする大部屋にお招きする訳にもまいりません」
安全面から気を遣って言っているのだろうが、ここを断られるともはや野宿しか選択肢が残されていない。どちらに転んでも安全面が確保できないならば、せめて屋根のある所でとフォースィはもう一度神父に頼み込んでみるが、良い生地で作られた修道服の彼は首を縦に振らなかった。
「一応、教会はもう一つあるにはあるのですが」
南にある小さな教会。街がまだ復旧していなかった頃に使われていたその教会は、既に見向きもされなくなっており、老朽から他の人間には勧めていないという。
「分かりましたわ。そこにしましょう」
フォースィは背に腹は代えられないと妥協した。
それが良くなかった。
二人は大通りを南に下り、さらに大通りから奥に続く路地を抜けた先に教会らしき影が見えると、途中で教会の姿に気付いて溜息をついた。
「いくら満杯だからといってあの神父………普通ここを勧めるかしら」
老朽どころではなく、もはや家屋としては使えない程に廃墟と化していた。
放置された教会は外壁こそほぼ残っているものの、屋根の一部は崩れ落ち、窓のガラスも随分と前になくなっているらしく、窓枠はカビと苔が支配していた。
一体何十年放置していたのだろうか。
フォースィは堂々と半開きになっている入口から中へ入ると、教会の天井からは月の光が空気中の埃と共に石畳を照らし、触れれば朽ちてしまうような木の長椅子の列が幻想的な風景を作り出していた。
「お、お師匠様―――」
「それ以上言わないで、イリーナ」
さすがのイリーナも呆れて肩を落としている。雨が降れば野宿と変わらない状況にある事は、子どもでも分かる。
「まぁ、野宿よりはマシだと、割り切りましょう」
全ての原因は、あらゆる宿を貸し切った王国騎士団にある。一体どこの騎士団かは知る由もないが、明日にはその顔が拝めるだろう。フォースィは埃だらけになった長椅子を手で払い、とりあえず腰かける。
イリーナが礼拝堂の奥に入って周囲を確認して回ると、多少修理すれば使えそうな竈を見つけたと師に報告し、遅めの夕食の準備が進められる。




