②教会
大通りを上がり終え、二人は学校と教会に挟まれた石畳みの上で足を止めた。そしてこの街で最も高い鐘楼を見上げ、その下にある教会に体を向ける。
「良い教会ね」
「はい。お師匠様」
教会から、夕方の礼拝を済ませた住民や旅人達が扉から出ていく。フォースィとイリーナはその流れとは逆に教会の中に入り、まだ人がまばらに残っている礼拝堂へと進んだ。
「おや、旅の神官様と、その鎧は………これはこれは、聖教騎士団の方ですか」
部屋の掃除と長椅子の整頓をしていた長身の神父が二人の姿に気付く。五十歳を越えているであろう初老の神父は、幼いイリーナと聖教騎士団の姿に細い眼で驚きながらも、自分の左肩、右肩へと指を這わせ、手を胸の上に乗せて祈りを込めた教会流の挨拶で二人を出迎えた。
フォースィと、やや遅れてイリーナも同じ所作で挨拶を返す。
「礼拝後のお忙しい所、申し訳ありません。私達は巡礼の旅をしているフォースィと申します。こちらは聖教騎士団のイリーナ。宜しければ、こちらで一晩泊めていただけないでしょうか」
聖書を手に持つ神父は、しわの多い顔でゆっくりと微笑んだ。
「ええ、構いませんよ。それにしても赤い神官服とはまた珍しい方で―――」
二人に近付きながら話しかけた神父の言葉が、足と共に止まる。そしてフォースィの前で視線を上から下へと動かし、何かを思い出そうと言葉を続けた。
「もしやあなたは………『十極』のフォースィ殿ですか?」
フォースィが黙って小さく頷くと、神父は目を大きくして驚き、彼女の両手を急ぐように握る。
「何という………何という神のお導きか。あぁ、まさかあなたのような高名な方にお会いできるとは!」
「………いえ、まだまだ力不足の身で。お恥ずかしい限りです」
何度も見てきた光景。フォースィは神父の硬くなった皮膚の手で握られながら、動じる事なく相手の機嫌を損ねないように微笑み返した。
神父は我に返ると、『失礼』と小さく咳払いして手を離す。
「実は救って頂きたい者がおります」
何かあるようだ。フォースィは表情を戻すと僅かに首を傾げ、神父の言葉の意味を察する。
「イリーナ。あなたは先に部屋に案内してもらいなさい。部屋に入ったら、今晩必要な荷物を整理しておきなさい」
「はい。お師匠様」
「それでは、こちらも案内を出しましょう」
神父は近くにいた高齢の修道女に声をかけると、イリーナに二人が泊まれる部屋を案内するように伝えた。そして、イリーナが修道女に案内されて礼拝堂を出ていくと、神父はこちらにとフォースィを別の扉へと案内する。