⑮将来に期待
「もっと本気で来て構いません。これでも、冒険者ギルドから『十極』の名を受けている身………学生程度に手加減される筋合いはありません。遠慮は無用ですので、全力でかかって来てください」
「………分かりました」
動きに迷いがなかった事は褒めるべきだが、速さが全く足りていない。フォースィは校長のマドリーを一瞥するとすぐに魔導杖を降ろし、盗賊の女子生徒を後方へと下げさせた。
ドリス達も一旦僧侶の下へと下がると、僧侶と魔法使いから身体強化の魔法を重ねがけしてもらい、基礎能力の向上を図る。
彼女も校長の表情を伺った上でフォースィの期待に応える事を決めた。
「いきます」
ドリスが木刀に魔力を注ぎ、刀身に放電を纏わせる。
勇者の力は天を操る。かつての言い伝えの通り、勇者組のリーダーは雷撃をその身に纏った。
「イリーナ。ちょっと受けてみる?」
「え………冗談ですよね。お師匠様」
先程の倍の速度で迫り、振り下ろして来る彼女の一撃に、余所見をするイリーナが困った顔のまま体を横に一歩ずらして躱す。そして木刀を持つ彼女の右手首を狙って自身の木刀の腹を当てると、その手から武器を払い落とさせた。
「………っ!」
年端もいかない少女に渾身の一撃を避けられたばかりか、武器まで払われた。
「お見事」
その上、魔法使いが放った馬車程ある巨大な火球は、フォースィの魔導杖でいとも簡単に両断されてしまった。
「お師匠様も、お見事です!」単身の拍手。
「よしなさい………あんな魔力の練りが足りない見せかけの炎なんて、誰にも自慢できないわよ」
先程と異なり、戦士や盗賊の見事な連携は見られない。彼らは僧侶と共に、目を大きくさせながら驚いているだけだった。
フォースィが視線を上げると、そこには校長のマドリーが険しい顔のまま、微動だにしていない姿があった。
成程。
彼女は全てを理解した。
そして、ドリスに魔力消費の少ない強風を当てると、後方で驚いている戦士の盾へと吹き飛ばす。続いて、側面の魔法使いにも風を放って格技場の壁へと叩きつけた。
彼らの戦いは教科書のそれと同じであった。
集団での連携や大技での単独攻撃。連携においては無駄がなく、大技においては仲間を巻き込まない動きと思えるが、気付いた今ならば独自性に欠け、思考の連続性も感じられないと分かる。魔力も才能も十二分にあるのだろうが、現在の実力ならば街まで共に過ごしたリーバオ達の方が余程、生死の中で生き残る可能性が高い。
つまり、彼女達は勇者組と名乗ってい入るが、実戦経験のない『素人』である。
期待した分の反動はあるが、ならばとフォースィは残りの生徒達を強風で巻き上げ、地面へと叩きつけた。
「世の中の厳しさを、早目に教えてあげるのも、神官の務めでしょう」
強者としての優位。彼女はいつもの目つきに変わっていく。
「お、お師匠様。殺してはいけないのでは?」
「大丈夫よイリーナ。人はそう簡単には死なないから」
細まっていく目つきを見たイリーナは、かつての自分を重ねるように彼らに同情し、そして手を合わせた。
「合掌、チーン」




