⑭模擬戦
一時間後、フォースィとイリーナは訓練学校の格技場に立っていた。
目の前では、相対する様に五人の生徒が木製の武器を構えている。その中には、先程お茶を持って来た校長の孫であるドリスも含まれていた。
「それでは、もう一度説明するわね」
人の背以上の高さにある観客席で、唯一の見学者である校長のマドリーが、依頼の内容を繰り返す。
「フォースィさん達には、我が校の勇者組と模擬戦を行ってもらいます。使用できる魔法は初級まで。相手が降参するか、戦闘不能になった時点で決着とさせていただきます」
ここに来るまでに説明を終えている内容も含めれば、今年の勇者祭で行われる闘技大会の練習相手に呼ばれたのである。講師とは名ばかりであり、教会の『務め』よりも、冒険者寄りの依頼に近い。
教会の立場から正直に言えば、マナー違反である。間違っても神官職の仕事ではない。
だがフォースィは、教会の立場としての釘を彼女にさした上で、この依頼を引き受けた。
理由は二つ。
蛮族と魔王に関わる情報を手に入れる為、もう一つは勇者と呼ばれる者達の実力を知りたかったからである。
フォースィは魔導杖を回転させながら相手を品定める。年齢は十五から十八歳程度、軽鎧のドリスを中心に、魔法使いと盾持ちの戦士風の男子生徒が一名ずつ、僧侶と盗賊風の女子生徒が一名ずつ。表情はやや硬めだが、バランスの取れたパーティとも言える。
「あの『十極』の名をもつ方が相手になって下さり、ありがとうございます」
代表として孫のドリスが真剣な面持ちで呟いた。事前にフォースィ達の経歴は伝わっているらしく、女神官と子どもの組み合わせと言えど、彼らにその容姿を笑う者はいなかった。
「こちらこそ、未来の勇者と言われる子達の実力………試させてもらうわね」
余裕の表情を見せるフォースィだが、魔力は一日分しか回復していない。唯でさえ本の封印に魔力を注ぎ込んだ後であり、これ以上の魔力の放出は避けたい所が本音であった。
「それでは、始めてください!」
校長の合図で、ドリス達が一斉に飛び出した。正面からはドリスと盾持ちの男子生徒が、僧侶は後方で詠唱を始め、魔法使いは側面へと移動してから魔法を唱え始める。
「イリーナ。殺してはいけませんよ? 勿論、大怪我も駄目です」
「お師匠様………結構難しいです。一人くらいは駄目ですか?」
「駄目です」
木刀を持つイリーナがうへぇと舌を出して脱力する。そして仕方がないと利き手とは逆の左手に木刀を持ち替えると、フォースィの前に立って盾持ちの突進を伸ばした右手で、左手の木刀でドリスの飛び込みを受け止めた。
「う、嘘だろ!」「そんなっ!」
自分の半分程の細い腕で攻撃を受け止められ、二人が驚愕する。
そしてフォースィは。魔導杖の先端を背後から襲おうとした盗賊の女子生徒の喉元に向けていた。




