⑬講師依頼
「失礼します」
入口と異なる奥の部屋から眼鏡をかけた緑髪の若い女性が現れた。服は先程の門の青年と同じ作りだが、色は絹のように純白である。
女性は銀色のトレーに乗せていた空のカップを三人の前に静かに置き始める。
「孫のドリスよ。この学校の勇者組の五年生なの」
「どうぞ、ごゆっくり」
孫と紹介されたドリスは、最後にティーポッドを中央に置くと半歩下がり、小さく頭を下げると、何も言わずに奥の部屋へと戻っていった。
「勇者組………ですか」
学校の組織までは把握していないフォースィが、聞き慣れない言葉を口に出す。
マドリー校長は、陶器でできたポッドを持ち上げると、フォースィとイリーナのカップに紅茶を注ぎ始める。
「この学校には、生徒の適性に合わせてクラスが分けられているの。魔法使いを目指す魔法組、聖職者を目指す神官組、剣や武道を目指す戦士組など………名前も分かりやすくていいでしょう?」
最後に自分のカップに紅茶を入れると、マドリーはソーサーごと持ち上げてカップを持ち、匂いを少し嗅いでから紅茶を飲み始めた。
フォースィも相手に合わせるように紅茶を少し口に含む。中に何も入れていないのだが、茶葉の苦みと甘い匂いが共存するような深みが舌と鼻に届けられる。
「勇者組は特別。高い志と学力、さらに実力と人格を認められた人間しか入れないクラスなの」
そう言い終えてから、マドリーははっと口元に手を置いた。
「あらやだ、別に孫の自慢をしている訳じゃないのよ」
「いえ、大丈夫です」
ようやくフォースィも表情を柔らかくして返す事ができた。
そして本題に入る。
「ゴリュドー先生から話は伺っています。何でも二百年前の歴史や魔王について話が聞きたいのだとか」
フォースィは頷き、自分が勇者一行の末裔である事、母の正体を探る為に旅を続けている事を明かす。
「見せてもらった本には母の死について書かれていました………ですが、私は本当に母があの場で亡くなったとはにわかに信じがたいのです」
「そうね。あなたの主張が正しいのならば、あなたの存在と矛盾してしまいますからね」
だがマドリーは、彼が持っていた本以上の事は分からないと素直に首を振った。
「そもそも、私が研究している事は、蛮族の活性化と魔王との関係性についてだけです。二百年前の真相は、一般の方より知っているという程度でしかありません」
「ええ。ですが今は少しでも情報を集めたいと思っています」
フォースィのまっすぐな目を見たマドリーは、一度だけ紅茶を口に付ると静かにテーブルへと戻す。
「分かりました。お話ししましょう」
マドリーも頷いた。
「ですが、先に『お務め』を果たしてからで宜しいでしょうか?」
「はい、構いません」
条件と言う程に厳しい物言いではない。フォースィは、勿論と頷いて見せた。




