⑪学校へ
翌朝。
結局、身の丈に合った宿泊場所を見つける事が出来なかったフォースィ達は、街の教会に世話になった。
「どこの宿も一杯だなんて、珍しかったですね」
「そうね。でも王国騎士団が借り上げていたのならば仕方がないわ」
教会を出てからというものの、イリーナは宿に泊まれなかった事を未だに根に持っている。
これだけ大きな街で、宿が一つも空いていない事は滅多にない。だが、宿の主人が皆一様に王国騎士団に昨日と今日の二日間を貸し出していると説明し、ある程度納得せざるを得なかった。高級店や程度の低い宿は空いていたが、金銭と安全性の関係から教会に泊まった方が良いという結論に至り、現在の状況となっている。
「お陰で、お務めを―――」
「イリーナ」
口を尖らせていたイリーナの言葉をフォースィは閉じさせる。思った事をすぐ口や表情に出してしまうのは彼女の悪い癖である。
「でも、今回のお務めは中々に興味深いものよ」
教会から依頼された『お務め』の内容。それは王立職業訓練学校の講師依頼だった。
どこでフォースィ達が教会に泊まっている事を知ったのかは分からないが、教会の神父が早朝に学校関係者を名乗る人物から二通の手紙を預かったという。恐らく、勇者記念館の館長から訓練学校の校長へと話が通った結果の流れだと彼女は推測する。
そして、もう一通は王国近辺で蛮族を退治した報告書の写し、その一部だった。書かれている文字が、年上らしく格好よく見せようとした結果、汚く見えるのは、フォースィの良く知る人物特有の癖である。
退治を担当したのは騎士団『盾』。報告書には蛮族達がゴブリンだけでなく、オークが彼らを率いて行動していたと書かれていたが、それが一体何を伝えようとしているのか、何故この手紙が一緒に送られて来たのか、彼女にはすぐに理解できなかった。
「まぁ、行ってみれば半分は分かるでしょう」
訓練学校には元々尋ねるつもりだったと割り切り、二人は街の北西を目指す。
ブレイダスの北西には貴族の庭のような赤レンガと鉄柵で囲まれた巨大な敷地が多くある。その広さたるやこの街の領主館の数倍以上あり、北西部の一区画全てが学校と言っても過言ではなかった。
「王立職業訓練学校。正門まで随分と歩かされたわね」
赤レンガの柵が見え始めてから十分。フォースィ達はようやく巨大な正門の前に到着する。正門は常に開かれ、そこには兵士でも騎士でもなく、薄茶色い制服を着た二人の青年が槍を掲げて立っていた。




