⑦歴史を知る者
「………魔王軍を、いえ魔王そのものをウィンフォス王国が作り上げたと言ったら、理由にはなりませんか?」
フォースィの静かな一言に、老紳士の足が止まる。
だが老紳士は小さく振り向き、低い声でフォースィに忠告する。
「ウィンフォス王国が魔王や魔王軍を作り上げた? 話としては面白いが………およしなさい。そんな事を言い続ければ、いつしか冗談では済まされず、不敬罪であなた自身の身が危ないですぞ」
「いえ、これは私が長年調べ続けて出した結論です。決して空想の類ではありません」
フォースィは引き下がらなかった。
「母の名誉がかかっています」
老紳士はもう一度フォースィに体を向けると、首を僅かに傾けた。
「失礼だが、その名を聞いても良いかね」
「私の母はマキ………。マキ・イクステッドといいます」
彼女の言葉に、老紳士の目が大きく開かれる。
「イクステッド………そうか、絶えてはいなかったのか」
「何か、知っているのですね?」
フォースィの目と言葉が鋭くなった。
「………ついてきなさい」
老紳士はフォースィの傍を通り過ぎ、その奥にある従業員専用と書かれた扉へと案内される。
従業員専用の通路を抜け、いくつかの廊下と部屋を抜けると館長室に至った。
一軒家ほどの広さがある部屋には、多くの書籍、骨董品が綺麗にかつ規則的、時代別に並べられている。中央にあるテーブルも椅子もかなりの値打ち物のようだ。
「そこで座って待っていなさい」
老紳士に言われるまま、フォースィとイリーナはテーブルの傍にあった椅子に座らされる。
彼は自分の執務用デスクに回り込むと、引き出しから真鍮製の鍵を取り出した。
「赤い神官服、『十極』のフォースィ殿がまさか勇者一行の血族だったとは思いもしませんでした」
老紳士はデスクの後ろにある金庫に鍵を通し、中から古めかしい木箱を取り出してきた。
「勇者一行、それでは母は勇者の仲間だったのですか?」
「ええ。しかも当時の勇者の妹でもありました」
木箱がテーブルの上、フォースィ達の目の前に置かれる。
「申し遅れました。私は館長のゴリュドー、以前はこの街にある職業訓練学校の校長も務めておりました」
老紳士のゴリュドーがフォースィ達と向かい合うように座ると、彼は杖をテーブルの隅にかけ、しわだらけで乾いた手を木箱の上に置いた。
「王立職業訓練学校では、多くの戦士や魔法使いを世に送り出してきました。昔は勇者と呼ばれる程の逸材も生み出してきました………あぁ、あなたなら既にご存知の事でしたな」
では本題にと、ゴリュドーは木箱の蓋をゆっくりとはずす。




