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Lost19 紅と蒼  作者: JHST
第五章 兵どもが夢の跡
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⑦歴史を知る者

「………魔王軍を、いえ魔王そのものをウィンフォス王国が作り上げたと言ったら、理由にはなりませんか?」

 フォースィの静かな一言に、老紳士の足が止まる。

 だが老紳士は小さく振り向き、低い声でフォースィに忠告する。

「ウィンフォス王国が魔王や魔王軍を作り上げた? 話としては面白いが………およしなさい。そんな事を言い続ければ、いつしか冗談では済まされず、不敬罪であなた自身の身が危ないですぞ」

「いえ、これは私が長年調べ続けて出した結論です。決して空想の類ではありません」

 フォースィは引き下がらなかった。

「母の名誉がかかっています」


 老紳士はもう一度フォースィに体を向けると、首を僅かに傾けた。

「失礼だが、その名を聞いても良いかね」

「私の母はマキ………。マキ・イクステッドといいます」

 彼女の言葉に、老紳士の目が大きく開かれる。

「イクステッド………そうか、絶えてはいなかったのか」

「何か、知っているのですね?」

 フォースィの目と言葉が鋭くなった。

「………ついてきなさい」

 老紳士はフォースィの傍を通り過ぎ、その奥にある従業員専用と書かれた扉へと案内される。


 従業員専用の通路を抜け、いくつかの廊下と部屋を抜けると館長室に至った。

 一軒家ほどの広さがある部屋には、多くの書籍、骨董品が綺麗にかつ規則的、時代別に並べられている。中央にあるテーブルも椅子もかなりの値打ち物のようだ。

「そこで座って待っていなさい」

 老紳士に言われるまま、フォースィとイリーナはテーブルの傍にあった椅子に座らされる。

 彼は自分の執務用デスクに回り込むと、引き出しから真鍮製の鍵を取り出した。

「赤い神官服、『十極』のフォースィ殿がまさか勇者一行の血族だったとは思いもしませんでした」

 老紳士はデスクの後ろにある金庫に鍵を通し、中から古めかしい木箱を取り出してきた。


「勇者一行、それでは母は勇者の仲間だったのですか?」

「ええ。しかも当時の勇者の妹でもありました」

 木箱がテーブルの上、フォースィ達の目の前に置かれる。


「申し遅れました。私は館長のゴリュドー、以前はこの街にある職業訓練学校の校長も務めておりました」

 老紳士のゴリュドーがフォースィ達と向かい合うように座ると、彼は杖をテーブルの隅にかけ、しわだらけで乾いた手を木箱の上に置いた。

「王立職業訓練学校では、多くの戦士や魔法使いを世に送り出してきました。昔は勇者と呼ばれる程の逸材も生み出してきました………あぁ、あなたなら既にご存知の事でしたな」

 では本題にと、ゴリュドーは木箱の蓋をゆっくりとはずす。

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