⑥消えた勇者
「成程。訓練学校が設立されてからは、その中から勇者を選んでいたのね………」
自然発生よりも、育成によって作り上げる事で、定期的に勇者を生み出す事に成功してきたと、壁にかけられた説明文で評価されている。
その後、カデリア王国はウィンフォス王国との戦争に敗れ、王立職業訓練学校はしばらく運営を取りやめる。しかし街が復興してからは、ウィンフォス王国の支援の下、運営が再開されたと終わる。
以降、卒業生の首席を『勇者』と呼ぶ習慣は生まれたが、国から称号として与えられる事はなくなった。勇者が生まれた際の『勇者祭』も、今では年間の催しとして行われるようになった。
ここ最近の内容は詳しく書かれているが、目新しい情報はない。フォースィは隣に足を進めて、歴代勇者の紹介文を見る。勇者として認定された年を指で確認しながら、目的である二百年前に認定された勇者を探すした。
「………ない。二百年前には勇者は生まれていない?」
壁に掲げられているのは十二代目の勇者まで。その彼が認定された年を考えると、二百年前までには、高齢で死んでいる計算になる。仮に生きていたとしても、魔王と戦う程元気でいられるはずがない。
「違うわ………恐らく歴史から消されたのね」
はっと革鞄に手を置き、フォースィは中に入っていた本の存在を思い出す。これまでの情報を合わせれば、二百年前にカデリア王国には勇者が存在し、少なくとも魔王と戦っていたはずであった。
「………どうかしましたか?」
フォースィの前に一人の老紳士が声をかけて来た。貴族ではない様だが、立派な服と帽子で身を包み、杖を持っているが、腰は曲がっていない。
老紳士は失礼と声をかけながら帽子を浮かせて挨拶すると、自分がこの記念館の館長をしていると答えた。フォースィも簡単に自分の名を名乗ると、早速目の前の展示物について話を持ち掛けた。
「実は巡礼がてら二百年前の歴史を調査していまして………ですが、ちょうどその時期から勇者が生まれていませんね」
「………ほぉ、二百年前の歴史を」
老紳士の目が細くなる。
「それで、神官様はどのような歴史だと分かったのですかな? 宜しければ調査の成果を教えていただきたいのですが」
記念館の館長ならば何か知っているかもしれない。フォースィは魔王が実在していたのではないか、そしてその魔王が、カデリア王国や勇者と戦ったのではないかと説明する。
だが、老紳士はそれに反論をかけてきた。
「しかし私達が知る歴史では、カデリア王国と戦ったのはウィンフォス王国であって、魔王軍ではありますまい。仮に魔王軍が存在してたとしても、カデリア王国を攻める理由がないのでは、ただの空想や妄想の類とされてしまうのではないですか?」
そもそも魔王の存在すら確認できていない。老紳士は物語としては面白かったと、長い眉を上げながらその場を後にしようとした。




