④予想外の収穫
「これはこれは神官様」
丁寧に頭を下げる男の姿は、日銭を稼ぐ程にみすぼらしくはなかったが、物語に登場する者達のような清潔さはない。黒い上下の服は小綺麗だが、随分と散髪していない丸くなった髪に無精髭を生やした顔は、売れない作家の宿命であった。
「面白いお話ですね。魔王は、星を落とす程の魔法をもっていた事は驚きでした」
子どもに聞かせる話なら、勇者が魔王を倒す話だと思っていた。フォースィは何気ない感想から話しかける。
作家の男は、よく言われると笑いながら丸く膨らんだ髪に手を乗せた。
「実は、小さい頃から祖母に言われていた話を参考にしたのがきっかけでして。いやぁ、自分でも突拍子もないものだとは思っていますよ。ですが、その方が周囲のウケが良いようで」
「失礼ですが、お婆様はこの街のご出身なので?」
祖母からの言い伝え、その言葉にフォースィの興味が一気に大きくなる。
「ええ、どこまで本当かは分かりませんが、うちは代々カデリア王国の時代からここに住んでいたと聞いています」
隕石の衝突で何も証拠が残っておらず、本当に分からないと男は繰り返す。
「それにしても、何故カデリア王国は魔王に狙われたのですか?」
「さぁ、祖母はそこまで言っていなかったですね………ですが、本当の話なら、余程魔王を怒らせる何かをしたんでしょうな」
男はそうだと思い出し、窪みの反対側を指さした。
「もしも気になるなら勇者記念館を訪ねてみてはどうですか? あそこは最近できたばかりの資料館で、代々勇者にまつわる物が展示されていますから」
「勇者記念館………」
フォースィは彼の指先が示す場所を見つめるが、窪みが大きすぎて男の言う建物を見る事ができない。
だが参考になった。
子ども向けの紙芝居にしては思わぬ収穫だった。フォースィは男に銀貨を一枚手渡すと、彼から絵本を受け取り、それをイリーナに渡した。
「お、お師匠様!?」
勝ってもらえるとは思わず、イリーナの目が大きくなる。
「丁度いいから、声に出して読んでもらえるかしら?」
「は、はい!」
体よく使われている事に気付かず、イリーナは絵本を開いて文字を読み始めた。
フォースィは男に軽く挨拶を済ませると、勇者記念館を目指して歩き始めた。




