①旧王都ブレイダス
蛮族達の襲撃から二日後。
フォースィ達は予定通りの日程で、旧カデリア王国の王都、今はカデリア自治領の大都市ブレイダスの街へと到着した。
あれからというもの、幸い蛮族の襲撃はなく、リーバオ達の体力も森を抜けた街で一泊した事で回復に至った。馬車の中の雰囲気が一層悪くなった事さえ除けば、順調な旅だったと言える。
馬車が南門を抜け、ついに街の中へと入る。王都ウィンフォスと同様、かつてはカデリア王国の中心として栄えていただけあり、門を抜けるとそこは多くの商人や旅人達が広場でひしめき合っていた。
「ウィンフォスギルドの方々ですね」
リーバオが馬車を停める場所を探して遠くを見ていた所に、一人の商人が声をかけてきた。彼はギルドからもらっている認印の割札を見せると、自分が荷物を受け取る者だと説明する。
ギルド公認の商人、さらに説明している内容も依頼内容と一致する。リーバオは馬車から降りると商人と握手を交わし、依頼通りの報酬を受け取った。
「やれやれ、ようやく終わったか」
「疲れましたね」「散々な旅だったわ」
荷台に乗っていた三人は、それぞれ思っている事を口にしつつ、フォースィの前を取りすぎて馬車を降りていく。
そして、フォースィとイリーナも最後に馬車を降りた。
「それでは、これで依頼は終了ですね」
リーバオが短く締めくくる。
「ええ、また機会がありましたら宜しくお願いします」
商人は馬車ごと荷物を預かり、荷下ろし用の馬留所へと消えていった。
しばしの静寂の後、リーバオは仲間達の方を振り向くと、小さく微笑んだ。
「取り合えず、依頼は終了だ。皆、お疲れ様」
初めて中堅向けの依頼を終えたリーバオは、興奮が冷めきれない子どものように拳を握り締め、満足そうに目を輝かせている。他の三人も何かに解放されたかのように体を伸ばし、大きな仕事を終えた達成感に満足していた。
依頼は終わった。フォースィはイリーナの肩に静かに手を置くと、ゆっくりとその場を離れようと踵を返す。
「フォースィさん!」
背中からリーバオの声がかかる。フォースィが顔だけ振りむくと、彼は報酬の入った麻袋を顔の前に掲げていた。
「これから皆と食事に行くのですが、よかったら奢らせてくれませんか?」
リーバオの言葉に、フォースィよりも他の三人の方が驚き、眉をひそめる。
フォースィは体を向け直すと、静かに腕を組む。
「あら、私はあなた達を見殺しにしようとした神官なのよ?」
そう言って妖美な笑みを見せつけた。
今までもフォースィの言動に周囲の雰囲気は悪かったが、あの一件が決定的となり、森の中からこの街に到着するまでの間、互いに声を掛ける事のない関係になっていた。
だが、リーバオは苦笑いしながら、しかし真剣な目で自分なりの答えを出す。
「思う所が何もないという訳ではありませんが、少なくともあなたやイリーナがいなければ、俺達は今頃森の中でバラバラになって殺され、荷物も失っていたことは間違いありません」
その分だけでもお礼がしたい。リーバオが最後まで言い切った。
疑いようもない事実とリーダーの言葉に、仲間のライド達の表情も僅かに緩みを見せている。自分達の考えや感情が、いかに幼い物だったと理解できた、そうフォースィは感じ取った。
だがフォースィはリーバオの誘いに首を左右に振る。
「現実と感情を分けて考える事ができたのは良い事だわ。その気持ちはこれからも大切にしなさい。だけど、あなた達のお金で食事を奢ってもらう訳にはいかないわ」
リーバオは残念そうな顔をするが、フォースィは少し違うと、隣にいるイリーナの頭の上に手を置く。
「この子がいるとあなた達の報酬が無くなってしまうわ………だから食事は、私から奢らせてもらうわ。おめでとう………これであなた達も中堅の冒険者の仲間入りね」
その言葉に、リーバオと他の仲間達は顔を合わせて喜んだ。そしてご飯が食べられるとイリーナも彼らの中に入って一緒になって飛び上がった。




