⑬未熟な冒険者は何を学ぶ
「くそっ、あの女………本当に俺達が戦っている間、ずっと見ていやがった」
ライドの悪態に、リーバオは今にも倒れそうな体を奮い起こし、剣を支えにしながらフォースィのいる馬車に近付いていく。
馬車の上に座るフォースィ、今にも地面に倒れそうなリーバオの視線が直線上に並んだ。
「お疲れ様。どうやら全員生き残ったみたいね」
小さな笑顔で迎えた彼女の一言に、今まで耐えてきた彼の感情が堰を切る。
「良い身分ですね………俺達が死に掛けていたというのに………どうして助けてくれなかったんですか!」
力の限り喉を震わせた一言。
だが、フォースィは表情を変える事なく首を僅かに傾げた。
「言いたい事は分かるけれど、依頼を受けたのはあなた達で私ではないわ。その私がどうして、あなた達を助けなければならないのかしら?」
その立場の違いは説明したはずだと、フォースィが眉をひそめ、小さく鼻を鳴らす。
だが、理屈ではないとリーバオは肩を震わせた。
「だからって、本当に見捨てる奴がいるか! あんた、それでも神官か!」
「ええ、それでも神官をやっているわ」
仕方がない、とフォースィは溜息をあからさまに大きく吐き捨てると、馬車を降りてリーバオの正面に立つ。
「いいこと? 冒険者ごっこのリーダーさん」
「なっ! 俺達はこれでも………どわっ」
フォースィは有無を言わさずリーバオの革鎧の首元を掴むと、馬車の横まで無理矢理引っ張っていく。
「これが何か分かるかしら?」
フォースィが馬車の横で絶命しているゴブリン達の死骸を彼に見せつけた。ゴブリン達は全員、地面から生えた土の針で体を貫かれ、既に息絶えている。
「これは何? 言ってみなさい」
「………ゴブリン達の、死骸です」
リーバオは驚きながら、そして屈辱に耐えながら彼女の問いに答えた。
「そうね」
フォースィが彼を突き放す。リーバオは盛大に尻から転び、ただでさえ汚れていた体がさらに土にまみれた。
「奴らは馬車を奪おうと動いていたのよ。あなた達、それに気付いていた? 約束した手前、私も手を貸してしまったけれど………もし、私やイリーナがいなかったら、あなた達は一体どうなっていたのかしらね」
答えるまでもない。
イリーナがいなかった時点で既に全滅していた事は明白である。加えて、気付かぬ内に馬車が襲われていれば、例え生還できたとしても荷物は無事では済まなっただろう。
リーバオはフォースィの言葉に、何も答えられなかった。
「さぁ、どうするの? 仲間に次の指示を出しなさい」
土に汚れたリーバオはゆっくりと体を起こし、拳を強く握りしめる。そしてフォースィを無言で睨み付けるが、何も言葉を発さずに目を反らして踵を返した。
リーバオは疲れた体を引きずるように仲間の下へと戻り、すぐに森を抜ける事を伝えた。




