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Lost19 紅と蒼  作者: JHST
第四章 二つの依頼
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⑫皮一枚の勝利

「レイリア、森の中は大丈夫だ! 俺達は見える敵だけに気を付ければいい!」

「分かったわ!」

 弓兵のレイリアは仲間の断末魔に怯え、動きが鈍くなっていくゴブリンの右目を矢で貫いた。

 徐々に森から放たれる矢が少なくなる。彼女は時折森の中から飛んでくる矢を避けながら、リーバオ達に集まるゴブリンの足を止め続ける。

 だがレイリアの後ろ、倒木を伝って背後を狙ってきたゴブリンが彼女に飛びかかり、逆手に握った短剣で腕を切りつけた。


「くっ!」

 素肌を晒している二の腕を狙われた。傷は浅いが、ゴブリンの持つ短剣からは濁った液体が滴っている。

 それが毒だということは、冒険者ならばすぐにでも気付く事ができた。

「こ、このぉ!」

 レイリアは矢筒から矢を取り出すと、着地したゴブリンの背中に直接矢を突き刺した。女性の力では刺さる深さもたかが知れているが、ゴブリンが背中の矢を抜こうと手を伸ばす隙を突き、弓の弦を引き絞り至近距離で矢を放って仕留める。

「毒が………」

 力を入れ過ぎた為、彼女の体に毒が急激に回り始めた。レイリアは震え始めた手で腰の革袋から小瓶を取り出すと、中の液体を一気に飲み干した。


「解毒が終わったわ!」

 僧侶のセディが額に汗をにじませながら叫ぶ。

 同時に盗賊のライドが短剣を握りしめ、体内の毒が浄化するまで膝を付いていたレイリアの前に立つ。

「すまねぇ、助かった!」

「………まったく、今度からは気を付けなさいよ?」

 酩酊状態の様な視界と気持ちの悪さに、レイリアは顔を手で覆いながら正面に立つライドに皮肉を込めた感謝を送る。

 治療が終わり、僧侶のセディも動けるようになった。リーバオは、レイリアを中心に仲間同士の距離を詰めながら潰れた馬車を背にして、陣形を整える。

「ゴブリンの数は残り僅かだ! 耐え抜くぞ!」

 リーバオの声に、仲間達は一斉に声を上げた。



 十数分後。

 ついにゴブリンの群れは駆逐された。

 森の中でイリーナが倒した数を含めて計三十匹。蛮族の襲撃としてはかなりの規模に入る激戦だった。


「ど………どうにか、追い払ったか?」

 意識が朦朧とする中、リーバオは剣を杖のように地面に突き立てながら体を預け、辺りを見渡す。

 他の仲間達も皆疲労の極地に立たされていた。地面が揺れるような意識下でレイリアは矢を放ち続け、既に矢は残っていない。僧侶のセディも仲間の支援のために魔法を使い続け、魔力切れに。盗賊のライドもまだ立ってはいるが、もはや短剣を振るう力は残されてはいなかった。

 これだけの戦いにもかかわらず、レイリアの毒以降、誰も毒に侵されていない事が奇跡だった。


「全員無事で良かった、良かった!」

 リーバオ達が息を切らしている中、その正面では森から出て来たイリーナが手を腰に当てて笑っている。

 そんな笑顔とは正反対に、彼女の両手はゴブリンの体液に肘まで染まり、頬や青い鎧にも彼らの体液や肉片が付着していた。一体何匹のゴブリンを屠ったのか、リーバオ達には想像すらできなかったが、少なくとも目の前の少女がいなかったら、全滅していた事は理解できた。


「お師匠様! 終わりましたぁ~!」 

 イリーナが馬車の上で座っているフォースィに手を振る。それに気付いたフォースィは、まるで公園で遊ぶ子どもに返すように、軽く手を振っていた。

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