⑩敵襲
「この木が邪魔なんですね?」
集まったリーバオの後ろからイリーナの声が聞こえる。彼女がいる事に彼らは僅かに驚いたが、イリーナは任せてと倒木が掴める位置まで移動すると、折れた木の幹を両手で掴んだ。
彼女の指が乾いた音を立てながら幹の中に沈んでいく。
「せぇのっ!」
自分自身の掛け声で、大人の胴回りはある倒木が浮き上がった。
「………すげぇ」
「それよりも、早く!」
驚いている盗賊の男がそうだったと我に返り、広がった隙間に体を通すと、荷台に倒れている足を掴んだ。大きさから女性か、子どもの足か、盗賊の男は冷たくなっていた足を引っ張った。
「こいつは―――」
人間の重さを意識して強く引いた彼は、拍子抜けする程に簡単に引き抜けた原因に驚く。
女性か子どもの足と思われたそれは、文字通り足だけだったのである。
同時に、彼の左肩には粗末な矢が突き刺さった。
「こ、こんな………」
「ライド!」
リーバオが仲間の名を叫ぶ。盗賊のライドは後ろ向きに倒れるも、彼がその背中を支えた。
そして、馬車の中で蠢く緑色の生物を目にする。
「こいつら、ゴブリンだ!」
その叫びを合図に、馬車の中にいたゴブリンが一斉に飛び出した。
「こんのぉっ!」
イリーナは持っていた倒木を僅かにリーバオの側にずらし、手を離す。倒木は重力に従って再び馬車を押し潰し、ゴブリン達をまとめて圧殺すると、馬車の幌が一気にゴブリン達の体液で色を変えた。
「いけない、毒に侵されているわ!」
僧侶の少女が顔色が土のように変色していくライドの容態を見て、その場で解毒魔法を唱えようと勢いよく魔導杖を掲げた。
「セディ、危ない!」
弓兵の少女が杖を掲げた少女の奥、森の茂みから弓を構えていたゴブリンを射抜く。
「くそっ、茂みの奥から待ち伏せかよっ!」
リーバオが腰の剣を抜き放つ。
左右の森から、大人の背の半分程のゴブリン達が現れ、粗末な短剣を持ちながらゆっくりとリーバオたちを囲み始めた。




