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Lost19 紅と蒼  作者: JHST
第四章 二つの依頼
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⑩敵襲

「この木が邪魔なんですね?」

 集まったリーバオの後ろからイリーナの声が聞こえる。彼女がいる事に彼らは僅かに驚いたが、イリーナは任せてと倒木が掴める位置まで移動すると、折れた木の幹を両手で掴んだ。

 彼女の指が乾いた音を立てながら幹の中に沈んでいく。

「せぇのっ!」

 自分自身の掛け声で、大人の胴回りはある倒木が浮き上がった。


「………すげぇ」

「それよりも、早く!」

 驚いている盗賊の男がそうだったと我に返り、広がった隙間に体を通すと、荷台に倒れている足を掴んだ。大きさから女性か、子どもの足か、盗賊の男は冷たくなっていた足を引っ張った。

「こいつは―――」

 人間の重さを意識して強く引いた彼は、拍子抜けする程に簡単に引き抜けた原因に驚く。

 女性か子どもの足と思われたそれは、文字通り足だけだったのである。


 同時に、彼の左肩には粗末な矢が突き刺さった。

「こ、こんな………」

「ライド!」

 リーバオが仲間の名を叫ぶ。盗賊のライドは後ろ向きに倒れるも、彼がその背中を支えた。

 そして、馬車の中で蠢く緑色の生物を目にする。

「こいつら、ゴブリンだ!」

 その叫びを合図に、馬車の中にいたゴブリンが一斉に飛び出した。


「こんのぉっ!」

 イリーナは持っていた倒木を僅かにリーバオの側にずらし、手を離す。倒木は重力に従って再び馬車を押し潰し、ゴブリン達をまとめて圧殺すると、馬車の幌が一気にゴブリン達の体液で色を変えた。


「いけない、毒に侵されているわ!」

 僧侶の少女が顔色が土のように変色していくライドの容態を見て、その場で解毒魔法を唱えようと勢いよく魔導杖を掲げた。

「セディ、危ない!」

 弓兵の少女が杖を掲げた少女の奥、森の茂みから弓を構えていたゴブリンを射抜く。


「くそっ、茂みの奥から待ち伏せかよっ!」

 リーバオが腰の剣を抜き放つ。

 左右の森から、大人の背の半分程のゴブリン達が現れ、粗末な短剣を持ちながらゆっくりとリーバオたちを囲み始めた。

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