⑨救助活動
「………フォースィさん達はどうしますか?」
一応と、リーバオが尋ねてくる。
だが、フォースィは本を読んだまま視線すら動かない。
「私は行かないわ。一応、馬車が逃げないように見ておいてはあげるから」
「………分かりました」
予想はしていたリーバオだったが、誰かが助けを待っているかもしれない状況に眉一つ動かさない彼女に、明らかな不満な表情を見せつつ、腰に剣がある事を確認してから急いで馬車を降りていった。
「お師匠様、良いのですか?」
イリーナが不安な表情で声を掛けると、フォースィは持っていた古書を閉じる。
「何、イリーナ。あなたはどうしたいの?」
「えっと、助けに行った方がいいんじゃないかな、と」
でも、とイリーナは両手の指を絡めながら、師の顔を見て決めかねていた。
彼女は今、自分以外の人間を助けたいと思い始めている。彼女を預かった時には見られない反応だとフォースィは、心の中で微笑んだ。そして、イリーナの頬にゆっくりと手を当てると、最後の一押しを彼女に与える。
「私がギルドから依頼されたのは彼らの監督、だから私自身は動けないの。でも、あなたはその依頼を受けていない。だからあなたが何をしようと、私は止められないわね」
「じゃぁ、見に行っても良いですか?」
フォースィは小さく頷いた。
「分かりました、じゃぁ、ちょっと見てきます!」
明るい笑顔でイリーナは馬車を飛び降りていく。
フォースィは古書を鞄の中にしまうと、前に垂れた黒髪を左右に払う。そして魔導杖を持って立ち上がると、仕方がないと呟いて幌を分け、放置された手綱を握り御者席に座った。
彼らの行動が吉と出るか凶と出るか。潰れた馬車の周囲に集まった彼らと、それに追いつこうと走っているイリーナの背中を見ながら、周囲の気配が変わっていた事に感覚を研ぎ澄ませ始めた。
「大丈夫ですか!?」
リーバオが声を上げながら倒木の下敷きになった馬車を覗く。
盗賊の男は反対側へ回り、馬車の様子を確かめに向かう。弓兵と僧侶の少女はすぐに動けるよう、リーバオの後ろで周囲を警戒する。
「リーバオ、こっちに人の足が見えるぞ!」
「分かった、今行く!」
盗賊の声にリーバオが反応し、続いて僧侶の少女が声の場所へと向かった。
「くそっ、木が邪魔でこれ以上進めねぇ」
潰れた馬車の幌と骨組みが倒木によって潰され、盗賊の男が伸ばす手が馬車の中にある裸足の状態にあった足に届かない。




