⑧森の中にて
「で、リーバオはどうするの?」
地図を押さえている弓兵の少女がリーダーに結論を求める。
「このまま東の道を目指そうと思っている」
即答だった。
「いいのか? 森の中だと蛮族やら追剥ぎが出る可能性も出てくるんじゃねぇか?」
盗賊の男が念の為と確認を取る。
リーバオも、それは分かっていると彼の言葉を否定しなかった。
「早く目的地に着くのに越した事はない。それに、森もずっと続いている訳じゃない。あくまで次の街までの間だけだ。抜けてしまえばこちらのものさ」
蛮族の可能性を理解した上での選択だった。
フォースィもイリーナも、彼らの会話に一切口を挟まなかった。
「まぁ、どちらが駄目だという理由もないしな。分かった、それで行こう」
盗賊の男が両手を軽く広げると、二人の少女も異論はないと頷いた。
「フォースィさん、そういう訳で俺達は東に向かいます」
全員の理解を得られたリーバオは、何も反応を見せないフォースィに報告する。
「特に私から言う事はないわ。一応聞いておくけれど………あなた達は蛮族との戦闘経験はあるのよね?」
「ああ、あるぜ。この依頼を受ける前が、ちょうどゴブリン達の討伐依頼だったからな」
すぐに盗賊の男が反応し、音を立てて自分の腕に手を乗せた。どうやら圧勝だったらしく、二人の少女もその言葉に強く頷いていた。
「………そう、ならいいわ」
フォースィは素っ気なく会話を打ち切る。そして荷馬車の幌に背中を預け、鞄の中の古書を開いて自分の時間を過ごし始めた。
馬車は二本の分かれ道をそのまま直進し、遠くに見える森を目指して車輪を回し続けた。
そして馬車を進めること数時間。
フォースィ達はついに森に挟まれた街道の中に入り、やや暗くなった道を進み続ける。
「おいおい、何だよこれは」
馬車の運転を交代した盗賊の男は、手綱をゆっくりと引いて速度を落とし始めた。
「どうした?」
馬車の中にいたリーバオが幌から顔を出し、すぐ横にいた盗賊の男に声をかける。
「倒木だ、それに………」
盗賊の男が倒れた木下に指を向けた。
「あれは………馬車だな」
「あれはもろに上から倒れてきた感じだ。運がないとはいえ、酷いな」
下敷きになっていた馬車は、幌の上から潰されたらしく、布は切れ、車輪も軸が折れて馬車から外れていた。馬車を引いていた馬は、運よく留め具が外れて逃げたのか、声も姿も見えない。
リーバオは一旦幌の中に戻り、仲間に事情を説明する。
「もしかしたら馬車の中に誰か巻き込まれているかもしれない。悪いが手伝ってくれ」
「分かったわ」「ええ」
弓兵と僧侶の少女が表情を切り替えて立ち上がる。




