⑦二つの道
「遅かったな」
馬車に乗るや、盗賊の男がここぞとばかりに小さく笑って出迎える。
「ごめんなさいね。女性はトイレが長いの。覚えておかないと恥をかくわよ?」
フォースィは弓兵と僧侶の二人に目を向けた後で盗賊に目を向け、小さく頬を上げた。
盗賊の男が舌を鳴らすと、そのまま首の向きを変えて黙る。
「………乗ったか? じゃぁ馬を動かすぞ」
これ以上面倒な事になる前にと、背中で話を聞いていたリーバオが手綱を馬に当てた。
進み始める馬車、そして十数分後には街の外へと繋がる東門へと辿り着く。
東門の周辺では、多くの商人や馬車が何かを待っているように列を成して止まっている。
「やはり二つの領土の間だと、商人達も活発なのね」
「ええ、ここではウィンフォスとカデリアの両方の商品が手に入るからね」
弓兵と僧侶が馬車から見える光景に驚き、お互いに成程と見聞を深めている。
だが、事実はそうではない。
それをフォースィだけが知っていた。
彼らは依頼した護衛が来るのを待っているのだ。情報を知っている人間と、そうでない人間では同じ光景を見ても、伝わる内容はまるで異なる。フォースィはその事を一切彼らに伝えず、彼女達が見ている商人の表情を逆の意味で横目に流していた。
ついに馬車は門での受付を済ませ、ブレイダスへと向かう街道へと踏み出した。
「それで、リーバオ。俺達はどうやってブレイダスまで行くんだ?」
シモノフの大関所跡を抜け、残りの道のりは半分を切った。あと二日も馬車を転がせば北東にあるブレイダスに着く。盗賊の男は気分転換も兼ねて手綱を握っているリーダーに声をかけた。
「実は地図では二つの道があるらしい」
その声に反応して弓兵の少女が荷台の上に合った地図を開いて木箱の上に置く。僧侶と盗賊の二人は揺れる馬車の中で膝をつき合わせ、同じ地図を眺めた。
リーバオが話を続ける。
「一つはそのまま東に進み、森の中を抜けてブレイダスの南門から入る道。目的地に一番近い道のりだが、そこまでの道に休憩できる街は一つしかない」
説明に合わせて弓兵の少女が地図の上で指を這わせ、全員で確認する。彼の言う通り、東の一本道を進むが、ブレイダスがここから真東ではなく、やや北東にある所が紛らわしい所でもあった。
「もう一つが先に北東へ向かい、ブレイダスの東門から入る道だ。やや遠回りになるが、平原の中を進む分、見通しが良く、途中で寄れる街も二つある」
リーバオの説明に、仲間達が成程と唸る。どちらも一長一短がある為、『何を優先』するかによって意見が分かれる所であった。




