⑥情報収集
「さて、と」
フォースィはギルドの依頼が貼られている掲示板の前に立った。
目の前の掲示板は長期、または短期の依頼が左右に分けられて貼られている。ここのギルドではさらに独自の解釈で難易度を設定し、上下を3段に分けて依頼内容を貼り分けていた。
「結構良心的な運営方法ね」
お陰で見やすいと、フォースィは顎に手を当てて貼られている内容を上から流し読む。
区分けされた掲示板、その中央には多くの依頼が貼られていた。しかも揃って依頼内容は街道上の護衛任務ばかりである。
フォースィが膝に手を当て、腰をかがめながらその依頼内容に目を通すと、どれもブレイダス方面に対する依頼ばかりで、依頼主は裕福な商人ではなく、本来であれば依頼をしてこないであろう単独の商人からのものが多かった。
「依頼というよりかは、もう嘆願ね」
この掲示板に貼られるだけでも日数に応じて手数料がかかる。普通ならば金銭に余裕のない商人はギルドに依頼はせず、商人同士の紹介や直接酒場やギルドに足を運んで声をかけて回る。
つまり、それでも確保できない窮状にある事を意味していた。
何かあるのだろう。フォースィは隣で依頼を品定めしている戦士風の男に目を向けた。彼の身なり、装備、そして首からかけている小さなプレートの色から中堅の冒険者と判断し、声をかける。
「ここのギルドは随分と商人の護衛任務を優遇しているのね」
いきなり声を掛けられた男は赤い神官服、それも口調とは異なりあまりにも若すぎる姿に一瞬戸惑ったが、ただの雑談だと割り切ってフォースィの言葉に『違う違う』と苦笑いで返した。
「あんた外から来た人か? 実はここ最近、この辺で賊が出るって話らしいぜ」
蛮族達が活発になった事により、ブレイダスに一番近い街道の一つが危険視された。その為、旅人達は見晴らしのいい方の街道を使い始めたが、今度は人間による賊が商人、特に単独や護衛を持たない小規模の集団を襲う事が多くなったらしい。
「蛮族も人間も、質が悪いって話さ」
この街はウィンフォス、ブレイダスの中間地点であり、交易の一大拠点の一つである。双方の名産品、特産品が比較的安価で手に入り、駆け出しの商人達は地方へ向かい高値で売り捌きながら往復する事で、経験と利益を積み上げていく。
故に賊達によって、その道が閉ざされる事は、彼らにとって死活問題であった。
フォースィは後ろからペタペタと走る音を耳に入れると、ゆっくりと腰を上げ、男に感謝して外へと足を向ける。そしてイリーナも合流し、リーバオ達が待つ馬車へと向かった。




