④シモノフの大関所跡
フォースィは驚く三人の冒険者達の目を見る。
「何を勘違いしているか分からないけど、依頼を受けたのはあなた達よ? 私ではないわ。私はただの同行者。オーナーは助言者と言っていたけれど、基本的には助言するつもりもないから。そのつもりでいなさい」
依頼を失敗したら失敗したとギルドに報告するだけ。どんな結末でも私は何一つ傷つく事はないと、フォースィが堂々と言い放つ。
厳しい言い方だが、先程からのイリーナとのやりとりや馬車の中の雰囲気から、彼女はこの駆け出し達をどこかで一度切り替えさせる必要があった。冒険者を始めてそれなりに上手くやってきたのだろう、運だけでなく、相応の実力もあるのだろう。フォースィは彼らの行動から予想し、可能な限り理解に努める。
だが、彼らは真の厳しさを体験していない。大通りを利用していても、不運が重なれば襲われる事もある。駆け出しで、しかも初めての遠征ならばもっと冷静に緊張しなければならない。フォースィは敢えて嫌われ役をかってでた。
「皆、フォースィさんの言う通りだ」
馬車の会話が切れた時に、幌の外から手綱を預かっているリーバオの声が聞こえてくる。
「これは俺達が受けた依頼だ。俺達の力だけで成功させなければ意味がない。例え言い方に不満があっても、俺はフォースィさんの言っている事は正しいと思う」
言葉に棘を含ませつつも、リーバオは堂々と言葉を繋ぐ。彼の正論に周囲の不満はやや中和され、馬車の中の空気が落ち着きを取り戻す。
盗賊は諦めて口を閉じ、舌打ちして元の位置に座り直す。弓兵と僧侶も口を尖らせるも、リーダーの言葉を尊重し、口を閉じた。
「お師匠様………」
さすがにイリーナも雰囲気を感じ取り、フォースィの肩の服を掴む。
「いいのよイリーナ。別にこれが初めてという訳でもないから」
馬車は静かに進み続け、その日は何事もなく終える事ができた。
翌日、宿泊した街を出たフォースィ達は昼前にシモノフの大関所跡に到着する。遠くからでも見える横長い城壁は冗談でも誇張でもなく地平線まで続いており、雲一つない今日のような日でも終着点を見る事は叶わなかった。
「凄ぇ、ここがシモノフか」
リーバオ達の視線が上へとつれられていく。王都の大正門も立派だったが、この関所跡も負けず劣らずに大きな造りだった。街に入ったリーバオ達は街の中央に存在する巨大な門や、その門を挟んで発展した異なる街の作りに釘付けになっている。
二百年前は門を国境線として扱っており、ウィンフォス王国側は木材を中心とした建築、旧カデリア王国側は石材を中心とした建築で、互いに宿場町が形成されていた。戦争後は二つの街も合併し、中央の巨大な門は、以来開いたまま、その役目を終えている。それでも巨人の一撃や竜の炎ですら耐えられる門と城壁の迫力は未だ衰えていない。




