③彼女なりのコミュニケーション
―――魔王はウィンフォスを愛していた。
フォースィはいつの日か呟いた母親の言葉を思い出す。
だが、それすらも事実か彼女には分からなくなってきている。捉え方によっては、魔王にさせられた者は、ウィンフォス王国にいいように使われていたとも読み取れたからだ。
しかしながら、フォースィの母親が勇者一行の一人、またはそれに所縁ある関係にあった事は間違いない。目的地は、勇者一行を生み出した旧カデリア王国の王都、ブレイダス。彼女は、そこに次の望みを託すしかなかった。
「今どの辺りを進んでいるのかしら」
気晴らしにフォースィが冒険者達に声を掛ける。
「王都を発ってから五時間ほどの距離………くらいといった感じかな」
弓兵の少女が答えてくれた。
行程としてはまだまだ始まったばかり。中間となるシモノフの大関所跡まで、まだ一日近い距離が離れている。
かつて二つの王国の領土を隔てて作られた南北に走る城壁にある巨大な関所の跡地。大都市ブレイダスは、その跡地を抜けてさらに二日の距離にある。
オーナーは彼らに監督や査定の話をしていない。初めて遠征依頼を受ける冒険者を心配し、あくまで助言者として伝わっている。フォースィ自身も顔合わせの際に、彼ら自身で全て判断するようにと言ってあった。
「フォースィさんは、冒険者としての経験は長いのですか?」
同じ聖職者として気になるのか、黒服の僧侶が尋ねてきた。
本当のことを言っても、二十歳に満たない外見ではまず信用されない。フォースィはそれなりに、と答えを誤魔化した。
「あなた達からしてみれば先輩にあたるけれど、朝も言ったように私からあれこれ言うつもりはないわ。あなた達はあなた達で、思ったように動いて依頼を果たせばいいのよ」
「それってつまり、基本的には助けないってことですか?」
新調したのだろう。上質な革でできた新品の胸当てを付けた盗賊が眉をひそめたまま会話に参加する。彼は彼女達と異なり、朝の件を今も引きずり、不満の表情を抑えている。
「ええ。そう思ってもらって結構よ」
「死人が出ても?」
盗賊の男の質問にフォースィは深く頷いた。
そのあっさりとした返答に、駆け出しの冒険者達は一斉に口をつぐみ、今まで遠足気分だった空気が一気に重くなる。
「………えぇと、冗談、ですよね?」
「何故冗談を言う必要があるのかしら」
弓兵の少女の言葉に、フォースィはぴしゃりと切り捨てた。




