②歴史の表舞台に載らなかったもの
「えぇ、実はほとんど寝ていないの」
フォースィは欠伸を手で隠しながら体を縦に伸ばした。
別に話を合わせた訳ではない。本当に一睡もしていなかったのである。
フォースィは例の本にかけられた封印を大量の魔力を放出しながら解析し、数時間かけて解呪、その先は寝る時間を惜しみ、ひたすら失われた歴史を咀嚼するように読み返していた。
魔力を大量に失い、かなりの若返りとなってしまったが、それでも得られた収穫は大きかった。
預かった本には例の男が、魔王を名乗らなければならなかった理由が書かれていた。
ゴブリンやオークに限らず、蛮族達は古来から魔王を信仰している。当時のウィンフォス王国は武力によって周辺の蛮族達を従えていたが、勇者一行を含めたカデリア王国の襲撃によって王都まで攻め込まれた結果、戦力の大半を失ってしまった。
このままでは王国の劣勢に気付いた蛮族達が反旗を翻す可能性がある。しかしカデリア王国に反撃しようにも王国内にはまとまった戦力がない。手詰まりに近い状況に追い込まれた国は、勇者を撃退した者を魔王として祭り上げる事だった。
勇者に匹敵する実力をもち、尚且つ味方に魔王を名乗らせる事で蛮族達を武力ではなく、信仰によって統率する事ができる。
その思惑は大成功に終わった。
蛮族達は種族を問わずに魔王の元に集結し、ウィンフォス王国の僅かな騎士団と共にカデリア王国に反撃を開始する。そして圧倒的な戦力で僅か1ケ月という電撃的な期間で隣国を制圧したのだった。
だが現在の状況を見るに、蛮族達が人間と共存を果たしていない。本には、戦争終結までが書かれており、その続きがない。巻によっては、一冊で終わらないものがある事を彼女も知っていたが、例にも漏れず、この本もその対象らしい。
フォースィは頭の中に大量に置かれることになった情報を整理し、本来の目的を振り返る。
目的である母の名前、その正体は預かった本の中には一切載っていなかった。自分の母親が魔王の敵だったのか、味方だったのかは未だに分からないままである。




