①監督者
翌朝、フォースィは馬車の中で舟を漕いでいた。
完全な寝不足である。
体も随分と若返っていた。本人でも正確には分からないが、体格や肌の状態から、確実に二十歳を割っている。
紅の神官服は随分と体との間に隙間ができてしまった為、オーナーから革のベルトをいくつか用意してもらい、肩回りや腰に巻き付けて服ズレを無理矢理止めている。神官服には似つかわしくない組み合わせだが、あの男が笑いながら用意してきた酒場の給仕服よりは遥かに良いと判断した。
オーナーから受けた話は、冒険者の監督と査定だった。
依頼は王都の常連商人からの荷物の運送と護衛。受けた冒険者は、結成二か月目の初級冒険者達で、遠征は初体験。依頼主やオーナーだけでなく、他の冒険者達ですら心配する組み合わせである。
オーナー曰く、常連に損はさせたくはない、しかし冒険者達には中堅に向けて経験を積ませたい。その結果の形が、上級冒険者を監督兼中級冒険者の査定として同伴させることだった。
つまるところ、馬車や水、食料、路銀も一切含めてギルドで出すから、子守をしてくれという内容である。
駆け出しの冒険者達との顔合わせも出発前に済ませてある。十五歳前後の若者達、しかも依頼は悉く成功させてきた順調な者達だけあって、フォースィが付く事に不満が停る事を隠し切れない笑顔だった事が印象に残る。
だが、同伴なしでは依頼は受けさせないというオーナーの厳しい一言で納得せざるを得ず、リーダーのリーバオは止む無くフォースィと手を握る事となった。
彼らは、同伴する冒険者の名を知らないのか、むしろ青い鎧を着た聖教騎士団のイリーナの方に注目が集まっていた。
「イリーナさんってその若さで聖教騎士団の一員なんですか?」
「すごいなぁ。やっぱり修業って厳しんですか?」
出発してからというものの、イリーナは馬車の中でずっと質問攻めにあい、目を回しながら首を右往左往させている。冒険者達はイリーナからしてみれば全員がやや年上だが、彼女にとって比較的年の近い人達に囲まれたのは、これが初めての事だった。
フォースィは目を覚ますと目頭を押さえ、大きく息を吸ってから周囲を見渡す。
馬車の中は緊張している正座のイリーナと、それを楽しく見て話しかけている僧侶と弓兵の少女、そして少し離れた所に盗賊の青年が隅で座っている。彼らのリーダーである戦士のリーバオは幌の外で馬の手綱を握っていた。
僧侶の少女は、目を覚ましたフォースィに気が付くと、さっそく声を掛けてくる。
「随分とお疲れのようですね。昨日は他のお仕事でもされていたのですか?」
正装である黒の修道服を纏い、三つ編み茶髪の眼鏡少女。彼女が持っている魔導杖は一般的なもので、硬い木製の棒の先に地味な装飾が施され、魔力を増幅させる小さな魔石が埋め込まれている。
他の仲間達も革の防具を主体に、王都のどの店でも売っている個性のない武具で身を固めていた。




