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Lost19 紅と蒼  作者: JHST
第三章 王国の歴史
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⑪影とともに消える

「中を見る事に関しては?」

 フォースィの質問が続く。

「何も言われてねぇ。俺が受けた依頼は、あくまでもその本を信頼できる人物に運ばせる事だけだ」

 読むなとは言われていない。短い言葉と時間だったが、フォースィもギュードも意思の疎通が終わる。


「分かったわ。依頼を受けましょう」

 もとより断るつもりはなかった。むしろ本の封印を解く事ができれば、フォースィは初めて歴史の確信に迫る事ができると興奮を隠していた。今まで数多の言い伝えを並べて答えを探してきた問題に、自ら模範解答が飛び込んで来たような僥倖である。


 ギュードが立ち上がる。

「俺もそろそろ退散するわ。タイサからの依頼も済まさなければならないからな」

「あら、(タイサ)は元気?」

 見上げながらフォースィが尋ねると、彼はタイサの元に新しく入ってくる新入りに何かあるらしいと、依頼内容を簡単に暴露する。


「名前からしてウィック家の人間ね」

「あぁ、そいつぁ(タイサ)も分かっていたよ。貴族の中でも大きくはないが、古参の一つだ」

 フォースィは何度かその名前を口ずさむと、おもむろに鞄の中の古書を取り出し、ページを何枚かめくった。

「偶然かもしれないけど………ウィック家は、二百年前に騎士団長を務めていたという話が残っているわ。でもそれほど地位の高い身分ではなかったようで、カデリア王国との戦いで戦死しているみたい」

「ほぉぉ、すぐに教えてくれるとは随分と気前が良いな」

 金が必要か、とギュードは指で輪を作る。

「たまにはね。今日は気分が良いの」

「成程」

 フォースィもソファーから腰を上げ、預かった本を古書と共に鞄にしまう。


「じゃぁな。オーナー、あ、悪いけどこの辺の本一冊貰っていくぜ」

「はぁ? お前、何言って―――」

「いいからいいから。保険って奴だ」

 その内返すからと、ギュードはその場から文字通り消える。扉も窓も開いていなかったはずだが、彼の気配はその一切が消えていた。


「だから、扉から出て行けと………」

 オーナーは呆れるように手を腰に当てる。

 フォースィの視線がやや横へとずれる。彼女は部屋の外に複数の気配を感じたが、それらはすぐに遠ざかり、やがて消えていった。

「オーナー、私もそろそろ戻るわ。貴重な話をありがとう」

 鞄の中から銀貨を数枚取り出したが、オーナーは手を左右に振る。

「気にするな。うちでそう話す決まりになっていただけだ」

 それよりも、とオーナーが話を変えてくる。

「二人の話からすると、お前達はブレイダスに向かう事になるのか?」

「えぇ………そうなるわ、ね」

 やや含みがちに彼女が素直に答えると、オーナーは丁度良いと言って追加の仕事の話を始めた。

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