⑨Lost12
「はぁ、つまんな。そこから先が重要な話なんじゃないか」
ソファーに体を預けるギュードが天井に溜息を吐き捨てた。
「待て待て待て、お前達何か勘違いしているぞ!」
こっちはただの宿屋の人間だと、オーナーは両手を前に着き出して弁解する。
「結局、王国騎士団と魔王がカデリア王国に攻め込んだ事くらいしか知らないんだ。その先は、ごく一般的に知られている歴史と同じ流れだ!」
「つまり、ウィンフォス王国は魔王と協力してカデリア王国との戦争に勝利した、ということね」
独り冷静なフォースィは成程、と古書に内容を追加する。
「確かに、魔王と協力したなんて公にはできないでしょう」
ギュードと異なり、フォースィは満点でないにしても、情報と情報の繋目を結ぶ事が出来たと、それなりに満足していた。
オーナー自身は、胡散臭く感じているようだったが、それなりに研究してきた人間からすれば、この話だけでも十分に面白い。
「………魔王がこの国に協力していたくらいまでは、俺だって知ってるさ」
さらりとギュードは言葉を放ち、顔を前に向けながら腕を組む。
「ギュード、あなたは何を知っているというの?」
そういえばと、フォースィは彼がここにいる理由を尋ねた。
「ギュードはお前さんに依頼があるそうだ」
オーナーはギュードに目を向けると、彼は懐から一冊の古びた本をテーブルの上に放り投げた。
その本は動物の鞣した革で丁寧に作られているが、本には名が刻まれていない。唯一刻まれていた文字は、背表紙に書かれた『12』の数字のみ。
「まさか、この本は!」
普段冷静なフォースィの目が大きく開かれ、前のめりになりながら額から汗を一筋流す。
「王国の真実を刻んだ………幻の12巻さ」
「こいつがか!」
ギュードの言葉に、オーナーも噂は聞いた事があると、フォースィに負けず劣らず顔を本に近付ける。
ウィンフォス王国は、国王の代ごとに一冊の歴史書を作っていると言われている。国民の多くはそれを見る事が許されず、王族か一部の大貴族のみの閲覧を許されていた。
だが、それでも見る事ができない巻数があると言われている。それが12巻である。
当時の女王リリアが治める時代。そのあまりの情報のなさに、元々当時の王が存在していないのではないかとさえ言われる一冊であった。




