⑧欠損した伝説
「蛮族達のせいで村の被害が大きくてな、当時の国王が希望する者は王都に招くと言ってきた。それでうちはここに店を構える事になった」
そして隣国との戦争が始まる。
「勇者一行がよ、この王都に攻め込んで来たのさ」
「勇者一行………」
オーナーの言葉に、フォースィが初めて反応する。
「確か、カデリア自治領には勇者祭があったな」
ギュードも先程の反応とは異なり、興味深く体を前に傾けた。
「あぁ。今では毎年行われている催しになっているが、昔は国が勇者を認めた時にだけ行われる国事の一つだったのさ」
隣国のカデリア王国には、強力な戦士や魔法使いを育てる専門の学校があった。現在は大都市ブレイダスで王立訓練学校と名を変えて存在している。
「どこまで本当か分からないが、王都の大正門を一人で破壊したり、何百人といる近衛騎士を皆殺しにしたらしい」
だが、その話と例の存在とどういう関係があるのか。フォースィ達は疑問を胸に抱きつつ、オーナーの話に耳を傾ける。
「勇者一行を追い払ったのが、例の男だったのさ」
「はぁ?」
ギュードが突拍子もない話に思わず声を上げた。
「待て待て、そんな胡散臭い力を持った勇者達にその男が勝ったのか? 一体どうやってだよ」
「知らねぇよ。そもそも俺のご先祖様は避難していたらしく、何も見てないんだよ」
まるで物語の真ん中のページがごっそりと無くなったかのような話に、ギュードは拍子抜けした。
だが、フォースィは自分が調べてきた情報を繋ぎ合わせながら、冷静に言葉をかける。
「オーナー、続きを」
「ん、ああ。済まない」
オーナーが小さく咳払いをして、雰囲気を作り直す。
「とはいってもまぁ、後はそんなに長くないだ」
フォースィとギュードの顔を僅かに見たオーナーは後頭部を掻きながら言いづらそうに口を開く。
「男は魔王としてこの国の為に戦ったとさ。めでたしめでたし」
オーナーの言葉に、フォースィとギュードは一瞬続きがあるのかと彼の言葉を待った。
しかし、部屋は静寂を保ったままだった。
「本当に終わり?」
「………ああ。終わりだ」
フォースィの低い言葉に、オーナーも真面目な顔で返す。




