⑦二百年前の男
ギルドの中でも屈指の実力により、『影撃』の二つ名で呼ばれる彼は、主に情報屋を生業としている。時には相手から情報を買い、それを必要とする人により高く売りつける。誰に対しても軽く、またウケを狙おうとして失敗する所は彼の性格故である。
「それよりもオーナー。話を聞かせてくれるのかしら?」
何故彼が呼ばれているか分からないが、話さえ聞ければそれで良い。フォースィはそう割り切り、無駄な会話と時間を省こうとした。
「分かった。話をしよう」
オーナーはどこから話そうかと一瞬目を瞑ると、これは俺の家で代々伝わっている事だと前置きする。
「これを話していいのは、この店を継ぐ人間、そしてこの店とある人間との関わりに辿り着いた者にだけ話す事が許されている。正直な話、死んだ俺の親父も爺さんも、他の人間に話した所は見た事がない」
オーナーは伝わってきた内容を思い出すと、肩を震わせて自嘲する。
「必ず伝えろと言われているから一応言うが、今から話す事は他言無用だ………とはいっても、自分でも頭がおかしいんじゃねぇかと思われる内容だがな」
オーナーの話は、この店がまだアリアスの村にあった二百年前から始まった。
「ある日、俺の御先祖様は森で行倒れていた男を助け、家族として迎えたらしい。そいつは言葉が通じないだけでなく、この世界の事を何も知らなかったらしい。見た事もない生地の服を纏い、見た事も聞いた事もない技術や道具を持っていたと聞いている」
ある時、その男は王国に捕らわれる。
「何でも、王国の騎士を手にかけたと言われていたが、うちの話じゃそれは冤罪って事になっている」
しばらくして村が蛮族達に襲われた。
「救援の為に王国から派遣された騎士団の中に、その男がいてな。御先祖様はそいつに助けられたそうだ。だが、残念な事に初代オーナーの奥さんは助けられなかった。そこからだな、店の名前にアルトという名前が付けられたのは」
「どんな話かと思えば………別に特別な話でもないだろう。身寄りのない奴を迎え入れ、その後騎士になって帰って来た、ただそれだけの話だ」
ギュードは後頭部で両手を組みながら話半分で聞いていたが、終始無言のフォースィも同じように感じていた。魔王に繋がる物語としては陳腐で、大衆向けの物語としては平凡過ぎる。
「お前ら、俺のご先祖様の話にケチ付けるんじゃねぇ。俺だって、何でもねぇ話だって、そう思ってるさ」
だが話はここからだと、オーナーは手を左右に払った。




