⑥始まりの夜
その夜。
夕食を食べ終えたフォースィ達は受付の女性の案内を受け、オーナーに指示されたギルドのカウンターの奥にある部屋の前で止まると、扉を数度叩いた。
『開いているよ』
扉越しにオーナーの声が聞こえ、フォースィは扉に手をかける。
「イリーナ、あなたはここで見張りを」
「はい、お師匠様」
念の為とイリーナを扉の前に立たせ、フォースィは部屋の中へと入った。
「………こんな時間になってすまないな」
随分と儲けているはずのオーナーの私室は、どこの家にでもある質素な造りだった。彼はテーブルを挟んで四方にソファーがある場所に立ち、フォースィと対面するように招く。
「それで、どんな話なのかしら」
赤い神官服のフォースィは彼の目の前で足を組み、傷一つない美しい素肌を見せる。彼女自身に他意はないが、オーナーは小さく鼻で笑うと、そう焦るなと両手を小さく広げた。
「あと一人来る」
そろそろ来る頃だとオーナーはフォースィが入ってきた扉に顔を向けるが、まだ誰の姿もない。
「いえ、もう来ているみたいよ」
フォースィは顔を下にしながら小さく口元を緩める。
「さすが。『十極』の名は伊達じゃねぇな」
フォースィとオーナーが、声のする方へと向けると、一人の男がソファーに座って笑っていた。
黒と灰色の服で身を固めた痩せた体の若い男。目は細く、しかし眉は吊り上げ、人を小馬鹿にしたような表情は彼のいつもの顔である。
「ギュード、お前………きちんと扉から入ってこい」
オーナーは眉をひそめる。
「入ってきたさ。なぁ、フォースィ?」
ギュードは肩をすくめてフォースィに助けを求めた。
「さぁ。どうかしらね」
「あっ、ひっでぇなぁ。お前さっき気付いていただろう?」
話の流れに乗ってくれないフォースィに、ギュードは大袈裟に肩を落とす。
ギルドの中でも屈指の実力により、『影撃』の二つ名を持つギュード。彼は主に情報屋として依頼されたことについて調べ、その対価を得る事を生業としている。または相手から情報を買い、それを必要とする人に高く売りつける。誰に対しても軽く、また受けを狙おうとして失敗するのは彼の性格故である。




