孤児達の日常
子どもの食事は、彼らにとっての戦場である。
毎回見慣れた光景だったが、スプーンやフォークを両手に持って、口に入るだけの量を一気に頬張っている。そこには男も女も関係なく、喋るか食べるか、常に口を開けている。
「さぁ、フォースィも食べましょう」
今日の食事当番のマリンが首の後ろから紐を外して前掛けを脱ぎ、後ろに縛っていた水色の髪を解く。そしてフォースィと共に席に着く。
「神よ、今日も食事がとれることに感謝します」
子どもには強制させていないが、神に仕える身となった二人は、左肩から右肩へと指を這わせて食事前の祈りを済ませた。
「そういえば、今日はタイサさんがアリアスから戻ってくる日でしたっけ」
マリンがフォースィに話を振ると、兄の名前が呼ばれた事に気が付いたカエデは、そうそうと思い出す。
「そうだよ! カエデのお兄ちゃんがお仕事から戻ってくるの!」
「帰って来るなら、夕方か夜でしょう」
フォースィは小さなパンを齧り、視線だけを天井に向ける。
タイサがこの教会に来てから、彼は借金返済と教会の運営維持の為に冒険者となった。既に四年が経ち、今では彼も中堅手前となり、稼ぎもそれなりに多くなってきている。フォースィは、既にギルドに寄って彼の動向を確認していたので、彼が帰る時間も大体が予想できた。
フォースィ自身も、巡礼の神官職として、この教会に度々布施を置いている。実際は、タイサよりも稼いでいるのだが、彼の面子の為にあえて少額に留めている。
しかし、いつまでこの生活が保てるかどうか。
フォースィは同じテーブルにつきながら、周囲から最も離れた場所にいるかのように冷めた考えを巡らせていた。
「フォースィ、どうかした?」
気が付けばマリンが顔を覗かせている。フォースィは何でもないと苦手な笑みを見せると、遅れを取り戻すかのようにパンをスープに付けて口の中に指で押し込む。
子ども達は殆どが食べ終わり、遊び疲れたのか座ったままうとうととしている子が数人見えてきた。フォースィはマリンと目を合わせると、彼女は自分の食器を重ねて台所へと向かった。
「さぁ、ご飯を食べたらお昼寝の時間よ」
もちろん歯を磨いてから、とフォースィが手を二度叩いて子ども達に次の行動を促す。子ども達は自分が使った食器やフォークを重ねて台所まで持っていくと、既に準備していたマリンに手渡していく。そして、次に洗面所に向かい、年長者のカエデと共に歯を磨き始めた。




