⑭幼い聖教騎士
彼女は歪な存在にして、教会が作り上げた負の遺産。教会の計画として生み出された第一期生である。
幼い頃から聖教騎士になる為に専用の教育と訓練を施し、育てられてきた孤児。結果としてイリーナは教会が想像する以上の才能と成果を生み出し、十二歳という歴代最年少で聖教騎士の試験を突破した。
一方で計画には感情の未成熟という問題が浮き彫りになった。道徳観や倫理観が十分に育たないまま、強大な力を得た為に、子ども達は些細な喧嘩や不満ですら力で解決しようとしたのである。
初期段階の教育計画で育ったイリーナは、周囲からいじめられた際、同じ計画の子ども全員を殺害し、さらに止めに入った教会の人間も皆殺しにしている。興味がてら見学しに来ていたフォースィが、部屋中を赤く染め、天井に付いた鮮血が垂れる雨の中、駄々をこねて泣きじゃくっている少女と目が合った。それが最初の出会いとなった。
以来3か月。教会の手に負えなくなった彼女を引き取ったフォースィは、人として必要な感情を育てながら、時には小間使いとして共に旅をしている。
食事と片付けが終わり、イリーナは焚火の近くで丸めた幌を少し引き出してシーツの代わりにすると、そのまま横になった。
「イリーナ、寝る前に鎧や靴は脱いでおきなさい」
古書を読みながら声をかけたフォースィ。イリーナは焚火で照らされる読書姿のフォースィの姿をずっと見つめていた。
「………どうしたの?」
「お師匠様。今日も何かお話しして下さい」
時々フォースィがイリーナに語り掛ける物語。ある時は行った事もない国や街の話、この国の歴史の話。イリーナにとっては全てがお伽噺のように楽しい時間だった。
「お話ね………今日は何が聞きたいの?」
「お師匠様の話がいいです。えぇと、教会にいた時のやつです」
「本当に好きなのね、その話」
幼い頃を教会で育ち、僧侶の冒険者として過ごした日々。もう既に何度も完結していた話だったが、イリーナは特にこの話を好んで注文してくる。
フォースィは古書をカバンの中にしまうと、焚火の中の枝が折れる音を合図に『むかし、むかし』と話し始めた。




