⑪蒼き鎧を纏いし断罪者
「はい。お師匠様」
冷たいフォースィの言葉に、イリーナは元気に返事をする。
フォースィが馬車の中に入ると、外では男達の腹筋が許す限りの大声、悲鳴にならない叫びが響き始めた。
「ちょっと、動かないでよぉ」
「腕がぁ! 俺の腕がぁ!」
フォースィは外の出来事には無関心を決め込み、積み荷の中を確認する。
手前の木箱から蓋を外すと、中には様々な物が敷き詰められていた。
「密造酒ね………こっちは麻薬に、たぶん密猟した毛皮ね」
馬車一台分で随分と大きな金額になる。残り二台の中身は分からないが、とても一人の商人で運営出来る額ではない。
「ねぇ、逃げちゃダメだって。あ、腕を忘れてるよ!」
ずしんと大きな地響きが馬車に伝わる。
フォースィが馬車から身を乗り出すと、円形に地面が凹み、その中心にトマトを潰したかのような赤い染みが出来上がっている。
「あ、お師匠様。この人はどうしますか?」
イリーナは失禁し腰が砕けて立てない商人の胸倉を掴み、こいつの事だと前後に振っている。彼女の青い籠手は拳の先が塗料の入った容器に突っ込んだかの様に反対色へと染まっていた。
「そうね。いくつか聞いておきたい事が出来たわ」
フォースィは馬車から降りると、奥歯を鳴らしている商人に尋ねる。
「これだけの密輸品を一体どうするつもりだったの?」
商人は目の前で見た光景の恐怖と合わさるように自分の仕事を思い出すと、青ざめ震える顔で首を何度も左右に振った。
「言えねぇ! 言ったら殺されちまう!」
教本通りの言葉で拒否してくる。
「そう? ただ、今も大して変わらない状況だと思うけど」
フォースィは目を細めてイリーナに視線を向ける。
そして改めて商人に顔を向けた。
「手と足、いらないのは左右のどっち? 神の慈悲で選ばせてあげましょう」
「分かった! 言う、言うから助けてくれぇぇぇぇ!」
商人は空に向かって声を上げ、一瞬で命乞いを決めた。
「イリーナ、放してあげなさい」
「はい、お師匠様!」
商人から赤く染まった手を放したイリーナは、大きく欠伸をしながら両手を上に組んで背筋を伸ばす。
「お師匠様、お腹が減りました」
「………その前に手を洗ってきなさい」
「はーい」
フォースィの言葉に、元気良く返事を返した。イリーナは自分の籠手が赤くなっている事を思い出して、うへぇ、と渋い顔を作った後、元気よく左右に飛び跳ねながら馬車の中に戻っていく。




