⑦えげつない
大通りを下り終わると、東と南北の大通りが交わる広場では、多くの馬車が門の近くで荷物の搬出と搬入を行っていた。隣町から来た馬車からは荷箱が降ろされ、これから出発する馬車にはこの街で買い付けた商品や特産の木材や炭が次々と積まれていく。
「お師匠様、ギルドには寄らないのですか?」
大通りの途中で買った煎餅焼きを齧りながら、イリーナがフォースィを見上げた。
移動の足として馬車を利用する手段は大きく分けて二つ。一つは純粋にお金を支払って旅馬車に乗る方法。もう一つは、馬車の護衛を引き受ける事である。
後者の場合、依頼はギルドを通して行われるのが普通であった。
「まぁ、見ていなさい」
フォースィは広場に集まっている馬車の近くにいる商人を見渡す。そして、自分は動く事なく、しかし最も時間を気にしている人間を見繕う。さらにその容姿や積み荷を運ぶ人間をじっと見つめ、ついに一つの馬車に目星をつけた。
フォースィは一人の商人に近付くと、声色を意識して声をかける。
「お忙しい所、申し訳ありません。こちらの馬車はどちらまで行くのでしょうか?」
「ああ、何だお前達は? この馬車はグーリンスへの早便さ」
目の前に現れた真紅の神官服を着た妖美な女、商人はそれがどうしたとやや感情的になりながらぶっきらぼうに答えた。
グーリンスの街はここから東にある比較的大きな街で、王都への通り道でもある。
フォースィは胸を挟むようにして両手を組むと、さも困った顔をつくって商人にさらに一歩近付く。
「実は私達も王都を目指して巡礼の旅をしているのですが、あいにく馬車で移動するだけのお金がありません。もしよろしければ荷台の隅に乗せて頂けないでしょうか? 回復や解毒といった魔法程度ならお手伝いする事ができます」
商人はフォースィの表情と体を見た後に、彼女の後ろでお菓子を食べている呑気な少女の騎士を覗き見た。
「………いいぜ、狭いが乗っていきな」
先ほどまで感情的だった商人はにやりと善意を込めて笑い、荷馬車の中を親指で指し示した。
「ありがとうございます。これも神様のお導きに感謝ですね」
人を疑う事を知らない純粋で無垢な女神官として、フォースィは商人に明るく微笑んだ。
「お師匠様………えげつないです」
「何か言ったかしら?」
一瞬で戻るフォースィの顔に、イリーナは思いきり首を左右に振る。




