①簡素にして質素こそ堅実
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フォースィは部屋の小さな窓から差し込む朝日で目を覚ます。そして夢の記憶を振り払うように首を振り、額に手を置いた。
硬いベットで体の節々が固まり、肩や腰を回す度に体の中で骨と関節が並ぶ音が聞こえてくる。イリーナの言葉ではないが、やはり宿で止まった方が何十倍も良い目覚めを経験できる。
『お師匠様、起きていらっしゃいますか?』
扉越しに、イリーナの声が聞こえてくる。
子どもは実に早起きだ。彼女が旅の共になってからというものの、鶏よりも正確な時間に声をかけてくる。フォースィは小さな声で起きている事を彼女に伝えるとベッドから起き上がり、もう一度背中を伸ばしてから壁に掛けておいた真紅の神官服に手を伸ばした。
「おはようございます。フォースィ殿」
食堂に入った所で、神父から朝の挨拶をもらう。
「おはようございます神父様」
一礼し、すぐに挨拶を返した。
長机が重ね置かれている食堂では、互いに向き合うように朝食が並べられている。修道女や若い修道士達の手で、ちょうど一番奥の席に最後の朝食が置かれた。
神父が席に座ると、他の修道女達も一斉に腰掛ける。フォースィとイリーナも、神父の手で案内された向かい側の席にある椅子を引いた。
「主よ、今日も素晴らしい一日の始まりが迎えられた事に感謝します」
神父の言葉に、他の修道女達、そしてフォースィとイリーナも一斉に左肩から右肩へと指を這わせて印を切る。
食事は教会らしく簡素で質素。小さなパンが二切れに、芋と若干の塩胡椒を加えたスープ、飲み物は牛乳と決して期待を裏切らない。昨夜の酒場で食べた白身魚の蒸し焼きや自家製野菜の盛り合わせと比べてはならない。
フォースィは今にも変わりそうなイリーナの表情を気にしながら、パンを千切りスープに付ける。スープは塩味がやや薄めだったが、硬いパンと組み合わせれば、何とか飲み込む事が出来た。
「古い文献の調査を、ですか………それはそれは興味深くも大変な旅ですな」
食事の中、フォースィは自身の旅について神父に話を振った。本当の目的は伏せつつ、古代の遺跡や伝承について調査していると誤魔化した上で彼女は話を進める。
「この街にも、何か古い言い伝えや建物等はありませんか? そうですね………千年とは言わず、二百年程前のもので良いのですが」
「二百年ですか………ふぅむ」
神父は顎に手を置いて、記憶の引き出しから取り出そうと唸る。
「この街で一番古い建物と言えば、隣の学校くらいでしょうか。後はどの建物も新たに建築したり、建て直しをしたものばかりかと」
「学校、ですか………」
学校ならば、古い資料等が残っているかもしれない。フォースィは、午前中に見て回る場所として学校を採用した。




