①脱出した者達
「なぁ、本当にこっちで良いのかよ?」
ゲンテの街を死に物狂いで脱出できた冒険者の男戦士は、慣れない馬車を走らせる盗賊に後ろから声をかける。
「知らねぇよ。こっちの方角だって言ったのは、あのお嬢ちゃんだぜ?」
何度も言わせるなと、盗賊の男が眉をひそめた。
向かう先は西。かつてのカデリア王国の中心であったブレイダスの街がある方向だが、やや南側にずれているともいえる。このまま道なき草原を走っていけば、やがてブレイダスの街影を拝みながら通過する事になる。
「まぁ、貰うもの貰っちまったからな。しゃーねぇーか」
紅の女神官からかなりの報酬を受け取った戦士の男は、いつの間にかこの集団のリーダーになっていた。彼は幌のついた荷台に渋々と戻ると、中にいる生き残り達の様子を見る。
あの戦いで無事に脱出できた人間は、紅の女神官と共に戦った冒険者達、依頼の目的だったイリーナと呼ばれる蒼い鎧を着た聖教騎士団の少女、そして街から脱出する道中で、次々と拾った銀龍騎士団の生き残りの騎士達が所狭しと詰めていた。
「お嬢ちゃんはまだ目が覚めないのか?」
看病している女僧侶に声をかける。
「ええ、もう丸一日寝ているわ」
冒険者達が依頼を受けて南の大通りに向かうと、そこには一人の青い少女だけが戦場に立っていた。そこにいたはずの巨大なトロールの顔が家に、または地面に沈んでいた。鉄の塊で身を固めたオークも無残な姿で散乱し、幸運にも生き残っていたゴブリン達は死骸や壁の隅で震えていた。
一体何をしたらこんな世界を創造できるのか、真っ赤に染まった青い少女は、冒険者の姿を見るやそのまま血の海に倒れ込んだのである。
「今でも信じられないな。この子にあんな真似が出来るなんて」
「俺も初めて見たが、流石は聖教騎士団ってとこか」
戦士の呟きに、反対側で座っている魔法使いの男が言葉を返す。
「それはそうと、騎士団の旦那は大丈夫かい?」
弓兵の男が荷台の隅で座っている騎士にも声をかける。西門を脱出した際は、東に向かって欲しいと叫んでいたが、それはできないと冒険者達に言い切られ、今は諦めたかのように静かに座っていた。




