④隙間か亀裂か
「情報が欠けているのか、それとも間違っているのか………」
自分が母と思っていた人物は全くの別人なのかもしれない。フォースィは自分の存在に関わる最悪の場合を考えると、予告なく起きた頭痛に思わず頭を押さえた。
「………もう少し、あともう少しで届きそうなのよ」
百年近く調べてきた事が、急速に紐を解き始めている。彼女は呼吸を整え、頭痛が収まるのを待つ。
「当時のリリア女王が残した手書きの文字を読む限り、魔王はウィンフォス王国を愛していた」
母の言葉と、12巻に遺された女王の言葉が一致している。これを信憑性が高い情報と位置付けた上で、フォースィは新たに生まれた疑問を口ずさむ。
「なら、魔王軍が王国に攻めてきているのは何故?」
単純な疑問である魔王軍の目的が未だ分かっていない。単純に食料を狙い、人を襲う為だと主張するには、あまりにも計画的、そして規模が大きすぎる。
フォースィは少ない情報が合う部分を探しながら書庫を後にし、階段を上っていった。
翌朝。
デル達が出発して一日が経ち、フォースィは旅に必要な荷物の調達を始めた。
ゲンテの街でほとんどの荷物を失い、旅に必要な水も食料も毛布さえもない。ましてや一生ここにいる訳でもない。彼女はいつ出発してもいいように、最低限必要な物をそろえた。
子ども用の服を着たフォースィは、プラウの家の居間にあるテーブルの上に荷物を広げ、調達した水袋や乾燥させた肉などの保存食、さらには薄めの毛布はプラウから分けてもらった成果を並べて腕を組む。
「お金………どうしようかしら」
旅には絶対に欠かせないお金、その先立つものがなかった。フォースィは持っていたお金をゲンテの街の冒険者に気前よく袋ごと渡してしまった事を今更ながらに後悔する。
手元を開けば、今手元には、革鞄の底に隠していた銀と銅貨が数枚のみ。宿代どころか、一日分の食事代を払えば、幾分も残らない。
「おや、どうかしましたか?」
テーブルで腕を組んで唸っていた所を、家に入ってきた老騎士のフェルラントに見られる。
彼は硬くなった顎をいじりながらテーブルの上に広がった荷物を一瞥すると、成程と小さく頷いた。
「お金がないようですな」
「分かっているなら言わないでもらえるかしら?」
品がない言い方だとフォースィは呆れた目を老騎士に返す。
「それは失礼。だが旅に金は欠かせぬ物、何か当てはあるのですかな?」
単純に言い負ける。フェルラントはまるで孫に接する祖父のように余裕のある笑みを見せると、フォースィのと向かい合うよう座った。




