③依頼達成
決断した後の銀龍騎士団の動きは早かった。睡眠も含め、夜明けまでには動ける騎士達が準備を済ませ、フォースィから教えてもらった洞窟に繋がる倉庫へと入っていく。
集落に残る騎士は、怪我で戦う事ができない数名と、副長と呼ばれていたフェルラントという老騎士。
フォースィも魔力を回復させる名目で、この集落に残留ことになった。
「フォースィ、後のことを頼む」
彼女のすぐ傍で立っていたデルが、倉庫に体を振り向かせ、すれ違いざまに声をかける。
「構わないけど、依頼は日当制だから早く帰ってきた方が良いわよ?」
「分かった。事務屋に怒られる前には戻ってくることにしよう」
軽口に軽口で返したフォースィは、互いに笑みを見せるデルと目を合わせる。そして、そのまま何事もなかったかのように部下を連れて倉庫の中、階段を下りて洞窟へと向かって行った。
「果たしてうまくいきますかな」
留守役のフェルラントが、同じく集落に残ったフォースィに声をかける。
「さぁ。でも勝てなければ王国騎士団そのものが消えてなくなるわね」
物騒な言葉をさらりと言い放つ。
フォースィはしばらく休む事をフェルラントに伝えると、小さく欠伸をしながら村長の家へと戻っていった。
その夜。フォースィは本来の目的だった本を地下の書庫へと納めに行った。
失われた歴史、存在しないはずの12巻を軽く見開いてから書庫に保管する。これでギュードの依頼を達成した事になる。
「魔王………その存在に担ぎ出された謎の青年………」
フォースィは一つ前の本に手を伸ばす。
そこにはまだ魔王となる前の青年と思われる事について書かれている。名前は伏せられているが、焦点を意識して読み込んでいけば、彼の事であろう事象がいくつも記されていた。
彼は騎士団の中でも窓際扱いされていた部隊に所属していた。そしてアリアスの村人達の救出に始まり、カデリア王国への潜入捜査、さらには捕らわれた王女の救出、カデリアの勇者やその一行との戦い、停戦協定に向かった国王の護衛等、素性の分からない人間にしては、歴史に関わる場面で常にと言っていい程に青年の姿がある。
全てが事実なら、彼が歴史を動かしていたともいえる。
だがその後は、失われた歴史書の中で青年の一切が消え、代わり魔王という表現が用いられ始める。




