②戦友に問う
「全く嫌な話だ」
全ては筒抜けだった。デルが地面に向かって言葉を吐く。
「しかし、敵が空から情報を得るのであれば、ゲンテへの襲撃も察知されてしまうのでは?」
「いや、それは解決できる」
デルはバルデックのもっともな疑問に即答し、フォースィの顔を見た。
指名を受け、彼女は組んだ足を解いて立ち上がり、地図の上からゲンテの街の北東にある森を指さした。
「この集落の地下には大きな洞窟があって、その出口がここに通じているの。さすがの彼らもこの洞窟の存在までは知らないはず。知っていたとしても、わざわざここに戦力を裂く事はしないでしょう」
「さらに蛮族達は王国騎士団の本隊と対峙するべく、ほとんどの戦力は既にこの街を出ているはずだ」
これから本隊に向かっても既に戦いは始まっている。デルはバルデックの疑問に答え、さらにと付け加える。
「仮に我々が戦いの前に合流できたとしても、どこまで信用してもらえるか分からない」
今まで全人類が見下してきた蛮族。それが恐ろしいまでの戦術や能力を駆使してきた事を簡単に信じてもらえる訳がない。デルは下唇を噛みながら悔しがった。
最終的に副長もバルデックもデルの案に賛同した。そしてデルの指示を受け、その場を離れていく。
デルは二人がいなくなると小さく息を吐き、コップを口元に運ぶ。だが既に飲み干していた事を思い出し、残念そうにゆっくりとテーブルの上に戻す。
「何か不安な事でも?」
フォースィは再び椅子に座り直し、足を組み直す。ワンピースから見える素肌の足は、本来の年齢ならば魅惑的に見えるのだろうが、今の姿ではませた少女が背伸びをしようと、無理をしている様にしか見えない。
それでも彼女は気にする素振りもなく、テーブルに頬杖をつき、口元を緩ませた。
「いや………何でもない」
デルは疲れた両目を親指と人差し指で擦り、彼女の言葉を流す。
「なら私からいいかしら?」
フォースィは目を細め、メイド姿の亜人との戦いを話に出す。
「………なぜあの時、彼女を殺さなかったの?」
心を覗くような言葉に、デルは感情を抑えつつもフォースィに鋭い目を向ける。
「………単純に長話が過ぎただけだ。お前もあの時そう言っていただろう?」
「そう? じゃぁメイドの………そうね人間の女性が剣を持ってあなたに襲い掛かってきても同じように首を撥ねられる?」
「………人間と蛮族は違う」
デルの目がフォースィの顔から逸れる。
「私には、彼女の首に剣を置いた時、あなたが躊躇していた様に見えたわ」
「俺がか?」
そんな馬鹿なとデルは一笑に付す。
デル達の援軍は間に合わず、東の集落で多くの騎士が蛮族達に襲われ、帰らぬ存在となった。その仇と言わんばかりに、デルは先の戦闘で対峙したメイド姿の亜人の妹を切り倒している。
「別にあなたを責めている訳ではないの。ただあなたはあの時、倒れた彼女の姿を今まで倒してきた蛮族とは異なると思っていたのではないの?」
フォースィの直線的な物言いに、デルはついに目と口を閉じた。
「人間の考え何て時間とともに変わるもの。不変な事なんてありはしないわ」
魔王軍という存在そのものが良い証拠だとフォースィはデルに話すと、それ以上言う事を避け、また彼から答えを聞く事もなく立ち上がり、自室に戻っていった。




