①反撃
ゲンテの街を奪還する。デルは考えた上での決断をゆっくりと、しかし低い声で集まった二人の騎士とフォースィに話した。
「しかし、団長。現在の我々はたったの五十人程度。とても街一つを解放するには数が足りません」
副長と呼ばれている老練な男がデルの案に反対を示す。フォースィはゲンテの街で生き残ったバルデックを見るが、その表情から彼と同じ意見なのだろうと察することができる。
だがデルの決意は変わらなかった。
既に銀龍騎士団の兵力は、王都の出発時の一割にすら満たない。副長らが言うにはまともに戦える者は五十人もいない状況。無理だという彼らの意見は至極当然のものだった。
フォースィは彼らの話を聞きながらさらに若返った足を組みながら振り子のように動かし、赤いワンピースのスカートを泳がせる。
騎士達に回復魔法を使った結果、彼女の年齢は二十歳を割ってしまい、紅の神官服がついに着れなくなった。今は村長のプラウからお下がりの赤いワンピースに体を通し、やや恥ずかしさもありながらも若くなった少女の姿を堪能している。
「だけど、このままだと王国騎士団は歴史的な大敗をする事になるわよ」
三人の会話が平行線になっていた事を見かねたフォースィが言葉を発した。
急に間に入ってきた言葉に副長とバルデックは声の主に顔を向けて口を開けたが、丁度良くプラウが台所から薬湯を持ってきた事で、雰囲気が柔らかくなる。
デル達は運ばれた薬湯を口にしながら一息つくが、やはり一刻も早く王国騎士団の本隊に事実を伝えに行くべきだと、バルデックが控えめに話し出す。
デルは二人の意見を尊重しつつ、魔王軍を自称する蛮族の行動を人間と同じ思考で行動していると仮定し、これまでの動きを説明した。
それは、王国騎士団の本隊と衝突する際、ゲンテの街に集めた物資が蛮族達に利用される事。それが偶然ではなく、蛮族達が街の騎士達が減った動きを把握した上で、襲撃をかけてきたという事だと気付いた副長とバルデックが息を呑む。
何と恐ろしい程の情報収集力、伝達力か。フォースィは三人の会話を静かに聞きながら、温まったコップを両手で包む。
「しかし、蛮族達はどうやって」
「空だ………俺も、昨日の昨日まで全く気が付かなかったよ」
デルは先の戦闘でバードマンの姿を見た事を伝える。副長達も何か思い当たる節があったのか、手を当てて納得していた。
正解、とフォースィは何も言わずに薬湯を少し口に運ぶ。デルにはゲンテの街で起きた事を伝えてあったが、彼はその情報を整理し、これまでの事、そして今後の事に無駄なく活かしていた。




