⑧無意識の高揚
「ハイ・プロテクション!」
ここだ、とフォースィはすかさずデルの正面に七枚の障壁を展開させる。デルの前に作られた障壁は、相手の攻撃を六枚目で受け止めた。
デルはその隙を突いて剣撃を放ち、メイド服を赤く染める。
メイド姿の猫亜人は全身を切り刻まれて膝をつき、地面に手をつく。重装オーク達も半数以上が討ち取られ、形勢は逆転、勝負は人間側に傾き始めていた。
デルは今にも力尽きそうな猫亜人に何か声をかけている。そして彼女が涙ながらに何かを訴えると、デルはゆっくりと彼女の首筋に剣を当てた。
だがその瞬間、上空から翼をもった亜人が現れ、力尽きたオセの体を抱きかかえた。
「何だと!」
デルは突然のことと驚き、さらに撒き上げられた土埃で視界を失っている。
「デル、逃げられるわ!」
フォースィは声を上げて土煙の中にいるデルに伝えた。彼は顔を覆っていた腕を下ろすと、土煙の中で数度剣撃を放つが、そのどれもが当たらずに終わる。
風が止んだ頃には、既に猫メイドの姿はなかった。
逃げられた。
フォースィは目を細めながら、呆れた顔でデルに近付く。
「瀕死の獲物を前に、口上なんて………まるで物語に出てくる三流の配役ね」
その言葉に、彼が鼻をひくつかせながら振り返る。
「お前だって、何も―――」
そう言いかけたデルは、フォースィの姿を見て言葉を止めた。
「何? 別に見るのは初めてではないでしょう?」
フォースィは両手を腰に当てながら時折肩から落ちそうになる紅の神官服を戻し、分かっていた事だと呆れるように諦める。
先日の戦い、そして今回の戦いでさらに魔力を消費したフォースィの姿はさらに背が低くなり、胸も小ぶりになった。ベルトで関節部を締めても真紅の神官服を着る事が厳しくなっていた。
さらにフォースィ自身でも気付く程に、声に幼さが出ている。
「………今いくつくらいの姿だ?」
デルの心配に関心を示さないまま、彼女は自分の肌の張りを確認すると、小さく溜息をついた。
「二十歳手前くらいかしら。けれど、最悪十歳を切らなければ問題ないわ」
とは言うものの、昨日今日と魔力の放出がフォースィの予想を遥かに超えている。仮に明日も同様の戦いが続いた場合、二日もしない内に十歳を切る事になる。
だが今はデルに、銀龍騎士団に倒れられては困るのも事実。彼女は単調な鼻歌を歌いながら魔導杖を振るい、負傷した騎士達を治療しに行こうと広場へと向かった。
「………鼻歌? 私が鼻歌なんていつ以来かしら」
自然と出ていた鼻歌の音が耳に届くとフォースィは我に返り、ゆっくりと音色を小さくしていく。




