⑦バステトの亜人
デルは先に行くと言い残し、あっという間にフォースィと差をつけて走り抜けて行く。
フォースィが入口の様子が見えようとした所で、デル達は重装オークと戦い、さらに白黒メイド服を来た猫の亜人と剣を交わしていた。
メイド姿の亜人は、デルから距離を取ると重装オーク達を横一列に並ばせる。
「デル、こちらも陣形を!」
デルが前衛に出るならば、支援に徹すれば良い。フォースィは即座に判断し、デルに声をあげた。
周囲の騎士達はいきなり現れた紅い神官服の姿と声に戸惑ったが、彼がフォースィの名を伝えた事で落ち着きを取り戻す。
「フォースィ。魔法は何回使える?」
「………それはどこまでの意味で言っているのかしら?」
フォースィは意味ありげに笑ってみせる。正直な事を言えば、王都からここに来るまでの間、かなりの魔力を消費しており、これ以上の若返りは止めておきたいのが本音でもあった。
それでも彼女は、竜の彫刻の魔導杖を空高く掲げて淡い緑の光を騎士達に降らせた。
「………残り二回よ」
集団への身体能力向上と加護魔法、回復魔法の同時併用は心臓と呼吸への負担が大きい。フォースィは片目を細くし、呼吸が荒れたまま魔導杖をゆっくりと降ろす。
「団長、これは―――」
騎士達は体からみなぎってくる力に興奮している。だが同様に加護を受けたるデルは感情を抑えつつ部下の前に立ち、剣を前に突き立てた。
「これより魔王軍に突撃をかける! 全員俺に続けぇ!」
「「「「了解!!」」」」
デル達は密集の陣形で魔王軍に立ち向かった。
「面白ぇ! テメェら! 蛮族に負けんじゃねぇぞ!」
メイド姿の猫人が両手に白銀の斧を持ち、鉄に覆われた重装オークと共に横隊を維持しながら地面をめくり上げてデル達に向かってくる。
身体強化の魔法をかけられた騎士達と、鉄の塊と化したオーク達とが正面から激しくぶつかり合った。
体格で負ける騎士でも、肉体強化によって一回り大きな体格をもつオークとも互角以上に戦っている。複数で当たれば、いかに堅牢な鉄でも傷付き、隙間ができ、または衝撃によって打ち倒す事ができる。次第に倒れる騎士の数よりも、オークの方が多くなっていった。
「さすが。『七速』の名は顕在ね」
フォースィは呼吸を整えつつ、残像によって複数いるように見えるデルの動きを追いかけ続ける。彼は通常の騎士が一度攻撃する間に、七度攻撃を繰り出すことができる。故に彼は騎士団長就任の際、国王陛下から『七速』の名を授けられていた。
だが相手のメイド姿の亜人も侮れない。
彼女は重戦士並みの力をもちつつ、対物理障壁と回復魔法を操っている。バルデックから聞いた魔王軍77柱の一人とは彼女の事なのだろう。フォースィは魔導杖をゆっくりと斜めに構え、少しずつ魔力を蓄積、二人の戦いの様子を見守っていた。
その時、メイド姿の猫亜人は、鋭い牙を噛み合わせながら弾かれた両手をそのまま横回転へと変化させ、デルの胴体を切断しようと試みた。




